78.水晶(両錐無柱形) Quartz (ロシア産) |
成分も結晶構造も、まったく普通の(六角柱状の)水晶と同じ鉱物である。ただ、結晶の形が違う。写真の通り、両端面のある六角錘形で、存在しない。あるいはごく短い柱面しかない。
これは、結晶が析出した時の温度環境に原因がある。成分である二酸化珪素は、加熱・冷却時の状況により、さまざまな結晶的、物理的性質を示すのだ。ベータ石英は、通常の水晶より高い温度で、結晶したもので、そのときの温度は、実験室的に、573℃以上、870℃以下だったと推定できる。別名、高温石英ともいう。これ以下の温度になったとき、ベータ石英はアルファ石英へと相転位する。
簡単にいうと、この標本は高い温度で結晶したので、風変わりな形をしているが、結晶した後、温度が下がって、今は普通の水晶になっているのである。生まれたときの高貴な姿を留めているが、中身は、ただの人というわけ。(こういうと水晶に失礼だが)
因みに、方珪石は1470℃以上の温度からの急冷によって生じ、鱗珪石は1470℃から870℃の範囲で急冷を受けて晶出した鉱物で、これらもまた、成分は水晶と同じである。(記載の温度は、いずれも実験室的に求められたもので、実際には微量の副次成分の影響で、より低温での生成が推測される。またゲル状の珪酸溶液から低温で沈殿して生成したと思しいオパールは、非晶質物質であるが、原子配列的に方珪石に相当する。)
訂正:上の記述では六方複錐状の形状を温度に依存する高温石英(ベータ石英)特有の形としており、以前はそう信じられていたのだが(そしてこの標本は「ベータ石英」として流通していたのだが)、現在この説は否定されている。
転移点以上の温度で熱水合成すると柱面のある結晶が成長したという実験結果が報告されており(珪酸の溶け込んだアルカリ性水溶液からの晶出)、柱面のない晶癖は酸性珪酸溶液という環境(珪酸分70%以上を含み、水分に乏しい熔融マグマからの晶出)に依存するらしいと説かれている。
←<砂川一郎「結晶」2003年共立出版による> (2004.3.28
追記)
ダルネゴルスク鉱山はスカルン鉱床で、水晶は高温の溶融マグマから固化したわけでなく、普通の低温石英の生成環境で(熱水)晶出したものと考えられる。カソード・ルミネッセンスを用いた内部組織の観察によると、柱軸に平行な断面に錐面と柱面の成長履歴を反映したノコ歯状の模様が現れており、錐面と柱面の相対的な成長速度が繰り返し大きく変動したことが推察される。
結晶内部に柱面のある結晶形を反映した模様が認められ、かつては柱面を持って成長した時期(錐面の成長が柱面の成長より速い時期)があったのだが、晩期になって柱面の成長速度が錐面のそれを大きく上回ったため、柱面が消え錐面だけが残ったと考えられている。
六角柱状の水晶が出来て、その上を別の鉱物が覆う。さらにもとの水晶とエピタキシャリーに水晶が冠状に育つ。
新たな水晶はおそらく低温生成で、柱面のない錐面(菱面体面)のみの形状。