139.蛍石   Fluorite   (イギリス産)

 

 

蛍石 (通常光下/UVSW下の蛍光)
−イギリス、ダーラム、イーストゲート産

蛍石 日光を浴びると青いろの不思議な色を帯びる
同上

蛍石−イギリス、ダーラム、ロジャリー鉱山産

 

イギリス、北イングランド地方のウェアデールで採れる蛍石は、素晴らしい蛍光を発することで有名だ。太陽の光の下でさえ、その美しい緑色の結晶は青い光彩を帯びて見える。

この地方では、数世紀に渡って、鉛鉱石、石灰岩、蛍石などを採取する鉱山が稼行され、美しい蛍石の結晶標本は、鉱夫たちの格好の小遣い稼ぎになっていた。しかし、イギリス鉄鋼業の衰微と外国産鉱石の輸入に圧されて次第にその数が減り、1999年の夏、最後の蛍石鉱山が閉山したことによって、長い歴史に幕が下りた。

けれども、鉱物コレクターの熱望と標本商の執念は、そんなことではおさまらない。同じ1999年の5月、アメリカ人出資者の協力を得て、蛍石標本を採るためにひとつの鉱山が再開された。それが、ロジャリーである。蛍石産地としては 1970年代のはじめに発見された比較的歴史の浅い鉱山だが、いまやイギリス唯一の、商業ベースに乗った標本鉱山として脚光を浴びている。
2000年の夏シーズンには、数百点の標本が採集されて市場に提供されたし、2001年のシーズンもすでに始まっている。バースデイ・ポケットを初めいくつかの晶洞が発見されているから、9月のデンバーショーには沢山の美しい標本がお目見えすることだろう。ただし、一級標本の値段は超特級が予想され、第二のスイート・ホーム(菱マンガン鉱で有名なアメリカの標本鉱山)と化しそうな気配がある。遊びで掘ってるんじゃないから、まあ、致し方あるまい。

ちなみに、すでに閉止した鉱山にコレクターが潜入して標本を採集する、というのは、ヨーロッパでも日本でもよくあることだが、ウェアデールでは、品薄となった蛍石を目当てに、コレクターが大挙して押しかけるケースが頻発したため、現在ほとんどの鉱山跡地では、厳重な立ち入り禁止措置が取られているとのことだ。それくらい、この産地の蛍石は美しいのである。

 

追記:上の標本の産地イーストゲート(別名ブルー・サークル)は、セメント原料を掘る採石場で、ポートランドセメントの製法が開発された場所として知られる。蛍石の古典産地ハイツ鉱山やカムボキールス鉱山にほど近い。1960年代に開かれ2003年に稼働を終えた。その間、イギリス産らしい海緑色の、貫入双晶を示すサイコロ形の蛍石標本を出した。内部中央付近に紫色の縞目を持つものが多い。閉止後しばらくして出た蛍石にはヒルトン産に似た黄金色のものもある。
産地にあった工場や煙突等の建造物は撤去され、原状回復作業が行われたという。

下の標本の産地ロジャリーは元は石灰岩の採石場で、19世紀中頃から採石が行われていた。その廃坑から蛍石の標本が採集されるようになったのは 1970年代初のことで、72年から96年にかけて地元愛好家の手で少しずつ市場に流れた。イーストゲート産のものと混同されることも多かったようである。
いったん閉山したが、99年にアメリカ資本と組んで、大がかりな標本採集が始まった。鉱山の旧坑に至る35m の横坑が掘られ、加圧水を噴射して壁面の鉱脈を剥がしていった。晶洞が開かれ、濃い緑色の貫入双晶を示す蛍石が大量に採集された。きわめて強い蛍光性があり、日光の下でも青く光るのが分かる。ウェアデールでも最良の蛍石を出すと評されている。
本文に書いた採掘活動の後も 2003年、2007年が当たり年になり、極美品が数多く出た。2007年に見つかった晶洞は「宝石箱」、「鼠穴」と名づけられた。「鼠穴」の端に別の晶洞が見つかり、「鼠の尻尾」と呼ばれて、2009年夏から10年春にかけて標本が回収された。その後も新しい晶洞の発見が続いており、現役産地として健在。(2019.6.29)

追記2:「窓際で不思議な輝きを見せているのは、おじいちゃんがおばあちゃんと英国に行ったときに手に入れた蛍石で、そのものは緑色だが、青白い光を辺りに放つ。」 梨木香歩 西の魔女が死んだ(1994) より。

鉱物たちの庭 ホームへ