142.隕鉄「天の原」 Campo del Cielo   (アルゼンチン産)

 

 

多分、表面を洗ってあるのだと思います

キャンポ・デル・シエロ−アルゼンチン、グラン・チャコ・グアランバ産

 

ブエノス・アイレスの北北西 800キロ。南緯 27度39分、西経61度44分。
この土地は原住民たちから、「天の原」(Campo del Cielo/ Field of Heaven)と呼ばれている。大昔、空から沢山の鉄が落ちてきたと伝えられているからだ。

1576年、住民からその話を聞いた時のスペイン総督は現地に調査隊を派遣した。指揮官を務めたキャプテン・ミラバルは数個の鉄塊を持ち帰った。現地には巨大な平板状の塊があり、これを「鉄のテーブルel Mesón de Fierro」と名づけた。しかし、別段何をしようという気もなかったらしい。そのまま 200年が過ぎた。

1770年代になって、スペイン人たちは、もしかしたらその鉄には銀が混じっているかもしれないと考えた(20%の銀を含むという噂が流れた)。しかし鉄のテーブルから採集したサンプルを精錬してみると、ただの鉄だということが分かったため、それきり沙汰やみとなった。1783年には地面から突き出すテーブルの周囲が掘り下げられて、そのサイズと重量が推定されたが(15トンという)、また放置されて、以後この塊は行方が分からなくなったらしい。(補記)

1900年代に入ってようやく、「天の原」の鉄塊が科学的調査の対象となった。さらに数個の巨大な隕鉄が発見された。一帯は雑木林の生えた乾燥した平野で、隕石が落下した時に出来たクレーターが 26個以上見つかっている。最大のものは、長径 115mx短径91mある。それぞれの中心部からクレーターの成因となったと思われる隕石が発見されている。落下エリアは 3x18.5km の範囲に帯状に広がる。回収された隕鉄の総量は 100トン以上という。 1969年に発見された「エル・チャコ」は28.8トンあり(1980年に回収された)、2016年には 30.8トンの「ガンセード」が発見された。これらはナミビアで発見された「ホバ」(60トン)に次ぐ巨大隕石鉄塊である。

落下時期については、炭素測定法で計測した結果、約4000〜5000年前という数字が挙げられた。原住民たちの伝承もそのあたりの年代を支持しているそうで、彼らの先祖が落下に立ち会った可能性は高い。
当時の人々は、衝撃で大地を震わせる天空の雷をどんな思いで見つめていたのだろうか?
「かみさん、怒ってるで〜」くらいで、すまなかったのは確かだ。

「天の原」隕鉄の組成は、ニッケル 6.68%、コバルト 0.43%、燐 0.25%。オクタヘドライトの一種で、磨いてエッチングすると約3ミリ幅のウィドマン・シュテッテン模様が現れるという。隕鉄の形成時期は約45億年前とみられている。

cf. 隕石の話2

補記:ホバ隕鉄はナミビアのオトジヘーンという場所で発見された。農園を牛を使って耕していた時に偶然発見され、1920年に全周が掘り出された。当時は 66トンと見積もられたが、切り出されたり、侵食されたりで目減りしたという。ニッケル分 16%のきわめて展性の強い鉄で、切り取るのはかなり大変だという。なにしろ重たいので、運び出されないまま今も発見地にあり、観光資源となっている。

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