141.隕石  Nantan  Meteorite  (中国産)

 

 

隕鉄−中国、広西壮族自治区、南丹県産

 

中国は明の時代、正徳11年(1516)、5月の夏のこと。「北西の方角から星々が落下した。その様はあたかも身を5〜6折に波打たせたミズチか龍のようであった。雷光の如く輝き、数秒の後に消え去った」と南丹地方の史書は伝えている。

No.140のパラサイトで書いたように、中世以降、数世紀に渡って、人類は隕石の落下を目撃したことがなかった。上の観察文はその唯一の例外であり、おそらく世界で最初の目撃報告書だろうとされている。しかし、この記録は、長い間、誰にも顧られずに埋もれていた。

1958年、新生中国は、大躍進運動の最中、国家発展のため鉄鋼の増産を奨励していた。誰もが鉄鉱石を裏の畑で探していた。台所の鍋釜さえ、鉄鋼の材料に供出させられた。しかし南丹地方に住む農民たちは、幸いなことに、いくつかの大きな鉄鉱石を見つけることが出来たので、そんな目に逢わずに済みそうだった。
ところが! 製錬所に持ち込まれた鉱石は、いくら熱しても全然溶解しなかった。困惑した農民たちは、政府機関に調査を依頼した。そうして科学者たちがやって来て、それらの鉱石が隕鉄であることを発見したのだった。そして、その落下位置が史書の記述に符号することが確認された。

これがナンタン隕鉄の経歴で、調査によれば、隕鉄は長さ27〜8キロ、幅8キロの範囲にばら撒かれたとされている。総重量は約 9.5トンと見積もられているが、植生豊かな土壌に埋もれており、確かなことは分からない。高温多湿の風土のため、それぞれの隕鉄塊の表層部分は失われ、核部が露出しているものが多い。すでに消滅した砕片もあるだろう。
7%のニッケルを含む典型的なオクタヘドライトで、面を研磨してエッチングすると、No.94のギベオンのようにウィドマンシュテンッテン構造が現れる。模様は一般にかなり粗い。
この隕鉄の特徴は、写真の標本でもなんとなく分かるように(?)、ニッケル合金鉄が八面体形状に結晶している様子が窺えることだ。

追記:何故、この隕鉄が溶鉱炉で溶けなかったのか、農民たちは、その後、台所用品を提供しなくて済んだのか、筆者は知らない。
しかし、南丹県の県都、南丹を囲む山々は、実際に鉄鉱石の宝庫でもあるというから、多分、鉱炉で溶ける鉄鉱石も首尾よく見つけることが出来たのであろう。

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