147.スタフェル石  Staffelite   (ロシア産)

 

 

スタフェライトの 正体見たり アパタイト

実は、鍾乳状の燐灰石−ロシア、コラ半島コブドール産

 

この石は、ある標本会で、なんとなく変わったものがあるなと思って手にとった。ラベルには Stafelite とあって、なんだか正体は知れなかったが、私の知らない鉱物なんて4000種くらいあるので、少しも気にしなかった。
ところが、家に帰って鉱物種便覧等を調べても全然それらしいものがないのである。懇意にしている標本商さんに聞いても分からない。鉱物百科辞典には載っていないから、ロシアの現地名だったら、まず調べようがないですねえ、と仰る。
しかし、標本を買った当のお店には、今さら聞きにくい。知らずに買ったの?と笑われそうだったので。
そんなわけで、そのまま時が経ってしまった。

2年ほど前、この名前をインターネット検索にかけてみたこともあったが、該当なしという答だった。
これはもう駄目かなと思っていたところに、助け舟をくれたのが、Sさん。 Staffelite なら、手持ちの図鑑に写真が載っているけど、f が1個多いですね、とアドバイスを戴いた。
勇躍、インターネットで調べたら、ちゃんとコラ半島コブドールの鉱物の中に、その綴り名でそっくりのものが入っていた。
別のサイトを見たら、「燐灰石の一種で、鍾乳石状になったもの。ドイツ、リンブルグのスタフェルに産す。炭酸水の作用によって生じ、燐鉱の表面に皮殻状をなす」、とあった。要するにスペルが間違ってたのだな。
それにしても、正しい名前が分かったら、すぐに調べがついたのには、インターネットの底力を垣間見た気がした。また、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」と、改めて感じた。最初から、恥をしのんで買ったお店に訊ねればよかったのである。

その後、「鉱物資源百科辞典」(牧野和孝著、日刊工業新聞社)という分厚の辞典の中に、この鉱物について記載があるのを見つけた。ただ一言、「スタッフェライト。炭酸塩−フッ素燐灰石」とあった。今のところ、筆者が気づいた邦語資料は、この本だけだ。(その後、木下亀城の「鉱物和名辞典」にも見つけた。)
燐灰石は、少しも珍しい鉱物ではないが、名前が変わるだけで、これほど正体を掴みにくい、というお話。さすが、アパトスの石。(No.118参照)

ちなみに、下の標本は、ドイツ、ザクセン、ザウベルグ産の燐灰石。小さなラベンダー色の結晶が細い水晶の合間に群れている。…やっぱり、燐灰石っちゃあ、これだよねえ。

補記:1866年、A.シュタインによって報告された。独立種と考えられていたが、1938年に炭酸−フッ素燐灰石と判明した。

追記:コブドール産のスタフェル石はほぼ採り尽くされてしまい、その後で産地の保護施策が発効したという。2007

Apatite 燐灰石

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