118.燐灰石 Apatite (マダガスカル産) |
燐灰石(アパタイト)は、比較的豊富に産出する鉱物である。さまざまな色あいの美晶標本が市場に出回り、私たちの目を楽しませてくれている。ラベンダー色のもの、菫色っぽいもの、スイスの蛍石を思わせる赤っぽいもの、また青っぽいもの、黄色、緑色のもの…。これらは、ときどきビビッドなネオン調を帯びることがあり、はっとするほど美しい。
ところが、その美しさにも関わらず、この石の評価は気の毒なほど低いように思う。そもそも、アパタイトという名前からして、ギリシャ語のアパトス−「騙す」という言葉が語源である。色や結晶形がさまざまなバリエーションを持っているために、古来、アクアマリン、アメジスト、かんらん石、蛍石など他の多くの石と間違われてきたのがその理由だという(※1786年 A.G.ウェルナーによる)。沢山採れるのも、考えものということか…。加藤昭博士は、自形結晶が観察できないと非常に同定が難しい鉱物だと述べている。ほかの鉱物を包有することがなく、成分変化のもっとも多様な鉱物のひとつとされている、と。また顕微鏡的なサイズのフッ素燐灰石は、花崗岩中などに普遍的に含まれている、と。
写真の標本は、マダガスカルで採れたもの。本当に天然の色か、と疑いたくなるほど(こらこら…)綺麗なパッション・ブルーの石だ。私は、結構お気に入りなのだが、世間ではこれをカットして、パライバ・トルマリンの代用(というかニセモノ)に仕立てていると聞く。希少価値が求められる宝石ならばともかく、鉱物好きとしては、石そのものの美しさを正当に評価してあげたいところである(でも、値段は安いままの方がありがたい…)。
補記:「ペグマタイトの緑柱石とリン灰石は肉眼鑑定が大変むつかしい。どうしてもわからぬ時は帰宅後、比重を測定してみれば緑柱石は
2.6-2.9で 2.7位のものが多いのに対しリン灰石は 3.2位であるからすぐわかる。」(長島「日本希元素鉱物」)
私は肉眼で判断して間違えた。 cf. No.181