158.アントラー石  Antlerite   (チリ産)

 

 

砂漠の中に隠された幻の町に巣くう、アリジゴクのような怪獣…じゃなかった?

アントラー石−チリ、アタカマ砂漠産

 

あるいはアントレー鉱。前項のブロシャン銅鉱と同じく、わりと珍しい銅の二次鉱物だが、あるところには大量にある。チリのチュキカマタでは、写真のように脈状になって埋まっており、主要銅鉱石として採掘されていた。標高3000mの乾ききった砂漠地帯に位置する鉱山は、外周4.5キロx2.7キロの範囲に深さ850mの大穴を穿った露天掘り(補記2)。生産量は年間50万トン、埋蔵量80億トンという壮大なスケールである。世界は広い。近くには鉱山で働く人たちが住むカラマという町があり、水は氷河から引いてくるそうだ。

この標本は、ある宝石商から買ったもの。店主の先代と先々代が鉱物趣味の持ち主だった。海外に宝石を仕入れにいっては、鉱物標本を山ほど抱えて戻ってきたものだという。3代目の当主には、あいにくその趣味がなく、先代が亡くなって10年経ったのを潮に処分することにされたのだ。マンションの一室を借りて、標本の貯蔵庫に当てられており、場所は取るし保管料だって馬鹿にならないと仰っていた。一度その部屋を拝見させていただいたが、それはもう、唸るほど大量かつ良質のコレクションだった。それほど情熱を込めて収集されたものであっても、後継者には何の値打ちも感じられないのだから、この世は無常である。

 

補記:アリゾナ州アントラー鉱山に産したため、その名がある。命名 W.F.ヒレブランド(1889)。
チュキカマタでは上部酸化帯に生じており、銅の鉱化作用の最終産物と考えられている。酸化帯の厚さは最大330mとの文献がある。珪化した輝銅鉱に富む斑岩の母岩を切って、画像のように繊維状の脈を形成するのが普通の産状。厚さはふつう数センチ程度。空隙部に5mm大の自形結晶を見せた。1970年代にはこの種の結晶がズリから大量に採集出来たという。古いチュキカマタ産の標本で Stelznerite またはヘテロ・ブロシャン銅鉱 Heterobrochantite と標識されたものは、まずアントラー鉱であるという。

補記2:チュキカマタ銅山の露天掘り本体鉱床はおおむね掘り尽くされ、2019年には地下採掘にシフトする見込み。大穴の深さは1,100mに達した。
cf. No.866 ナトロカルサイト

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