171.重晶石 Baryte/ Barite (USA産) |
重晶石はバリウムの硫酸塩鉱物。写真の標本は、板状結晶が平行に連晶したもので、俗に Cocks Comb (鶏のトサカ)という。
17世紀の初め、ボローニャの靴職人で錬金術師のカッシャローロは、近くのパデルノ山で、光沢のある重い石(ボローニャ石・重晶石の一種)を発見した。この石は炭と灼熱すると、暗所で赤く光った。硫化バリウム燐光体だ。1808年イギリスの化学者デービーが、石の発光源である新元素を突きとめ、すでに知られていた同属のアルカリ土類金属(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム)と比べて重いことから、バリウムと名づけた。ギリシャ語の「重い」(バリス)に因む。 ボローニャ石についての詳しいお話はこちらで。
補記: 重晶石の IMA 採用名称(国際名)は
baryte だが、一般に barite
表記も通用している。伝統的に英国では baryte
が、米国では barite
が採用されてきたため。国際鉱物学連合(IMA)は 1959年の設立時に "barite"
を公式綴りに採用したが、 1978年により古い名称である "baryte"
の綴りの採用を推奨した。アメリカ鉱物学会はこれをまったくといっていいほど無視した。
日本の図鑑類は、木下博士の「原色鉱石図鑑」(1957)をはじめ、堀博士の楽しい図鑑(1992)、豊・青木博士の「鉱物・岩石」(1996)、科博の観察ガイド(2008)、その他多数の和製書籍が barite
を採用しており、アメリカ流儀であることが分かる。mindat みたいな英国発祥のサイトは当然 baryte。
他の慣用名には barytine, barytite, schwerspath, Heavy Spar,
tiff, blanc fixe がある。
補記2:海水中で硫酸バリウムが化学的に沈殿すると一見石灰岩のような層状の岩石となる。大きな比重、及びハンマーで叩くと硫化水素臭がすることから識別できる。
補記3:「光の鉛筆」という本を眺めていたら、X線造影に使われる硫酸バリウムの粉末は拡散光の反射率がきわめて高く(98-99%)、「波長0.2
μmから2μmにわたって世の中でもっとも白いもの」だと書いてあった。これは天然では重晶石として産出する鉱物だが、なるほど白いこともあるよな、と思う。
白さの度合いを比べると、石こう87%、白壁60%だそうで、たしかに石こうは白いが、バリウムの方がもっと白いのらしい。ただし粉末の話で、結晶標本ではないよ。 (本サイトのホームページに呟いたテキスト 2012.10.17付)