173.トルマリン Tourmaline (パキスタン産) |
No.168で触れたように、トルマリンには暖めると静電気を帯びる性質がある。しかも冷えると正負極が逆転する。オランダの水夫たちはこの石をパイプの掃除に使ったが、まず灰を引き付け、その後で弾く便利さ(と面白さ)が重宝されたのだろう。
「1703年にオランダ人が初めて東インドのセイロンから、turmalin あるいは turmale と呼ばれ、また trip とも呼ばれる宝石を持ってきた。それは、磁石が鉄を吸引するように、燃えている石炭から灰を引きつけるだけではなく、ついでそれを反発するという興味深い性質を有する。少量の灰が石の上を飛び跳ね、あたかも全力でその石の中に自分自身をねじ込もうとしているように振舞うが、すぐにもう一度試すかのように、石からわずかに飛び離れる。…石炭が冷たいときにはこれらの効果は生じないため、その石は磁石のような取り扱いをする必要がなかった。」
と、『眠られぬ夜の奇妙な考察』(18世紀、ドイツ)にあるそうだ。
この現象を電気と結びつけて説明しようとした最初の人物は植物学者の大リンネだが、彼は石の実物を見たことがなかった。リンネの推測を、エピニウスが観察と実験によって証明した。1757年、ベルリン。この時彼は、ウィルケと一緒に正負の電気の研究に夢中だった。
アバウトな説明になるが、トルマリンの結晶構造は、「四面体状の空間配置を持つ珪酸分子(SiO4)が集まり、六角形のリングを作っているもの(Si6O18)」と、「平面3角形状の空間配置を持つ酸化ホウ素の分子(BO3)が集まって大三角形を作っているもの(BO3)3」との組み合わせに支配されている。珪酸のシックスリングは、緑柱石(アクアマリンなど)にもあるが、トルマリンの場合、(SiO4)四面体の頂角がみな同じ端面方向を向いている。こうした構造が電気的な極性をもたらし、巨視的には結晶の両端で形の違いを生む(異極晶)。またトルマリンの結晶が、ときどき三角柱めくのは、(BO3)3大三角形の影響で、これは有名なベンツマークの原因ともなっている。
ちなみに、上の標本には小さな赤っぽい針状のコルンブ石がついている(よく見ないと分からない)。背後の半透明の結晶は、もちろん水晶だ。