174.異極鉱 Hemimorphite (メキシコ産) |
異極鉱という名の通り、結晶の両端で形状が異なっている。トルマリンや硫カドミウム鉱も同様の現象を示すが(No.173参照)、やはり「異極晶」の代表選手といえば本鉱だろう。一方の端面はピラミッド状に尖り、もう一方が平たい。ただし、ひとつの結晶は片側が着床して、一方の端面しか持たないことが多く、しかも群晶になっても同じ面ばかり外に向ける傾向がある。従って、名前が語るほど簡単に異極が観察出来るわけではない。ちょっと頼りない代表かも…。
鉱物の結晶形は、ミクロな分子構造が巨視的に現われたもので、「異極晶」も然り。興味のある方は、 Zn4(Si2O7)(OH)2・H2Oという呪文を、ぐっと睨んで3次元に展開して見られたい。ヒントは Zn を核とする四面体 ZnO3OH と、2個イチの珪酸分子集合体 Si2O7の配置。う、頭が痛い…。
本鉱は、カラミンと呼ばれることもあるが、由来が判然としない。アグリコラが記録した語だが、カドミア(カドミウム)の訛りか、あるいはラテン語のカラマス(葦・アシ)に因むとの説が有力。前者はこの言葉が古くは別の鉱物を指していたことを窺わせる。後者はしょう乳石状になって産出することがあるため。別名アズテック・ストーンと呼ぶのは、メキシコに多産するから。
ちなみに透閃石
tremolite も Calamite の別称を持ち、結晶形が葦(calamus)に似るからという。
cf. No.896 (カラミン/カドミア)
追記:20世紀半ば頃からメキシコ、マピミのオハエラ鉱山産のさまざまな亜鉛・銅鉱物標本が市場を賑わせるようになった(cf.
No.789 -796)。異極鉱もその一つだったが(cf.
No.392)、70年代に入ると、これを上回る史上最強品との触れ込みで、メキシコ、サンタ・ユーラリア産と標識された標本が出てきた。ウェスト・キャンプのエル・ポトシ鉱山の一つの晶洞から出たものという。
その後、1990年に鉱山のレベル15-16で一連の晶洞が見つかり、標本が出回った。上の画像はその時の産と思しい。
1998年秋にはレベル13の「石膏の亀裂 Gypsum Fissure」と呼ばれるエリアで晶洞が見つかり豊漁を記録、以降も折々採集されているようである。
このページをアップしたのは 2002年だったが、その頃ウェスト・キャンプ産は退潮期にあり(鉱物標本はたいてい市場にあふれる時期と消えてしまう時期とを繰り返す)、サイトをご覧下さったある標本商さんが「ウェスト・キャンプ産。懐かしいです!」と仰られたことが懐かしい。なんのことはない、2005年にはツーソン・ショーにまたウェスト・キャンプ産があふれたのであったよ。(2020.5.3)
追記2:異極鉱は亜鉛の二次鉱物で、金属鉱床の酸化帯(ヤケ)によく見られる。このメキシコ産もそうだが、激しい風化を受けた感じの、空隙の多い褐鉄鉱の合間に透明な刃状結晶になって産する。
日本では大分県木浦鉱山のワンドウ坑産が有名だが、ここは錫石を含む褐鉄鉱を掘ったところである。cf.
No.355 補記2
褐鉄鉱の堅く目の詰まったものは地元で「ニコメ」と呼ばれ、ボロボロに崩れるのは「ボヤ」と呼ばれた。特に赤みの強いボヤをサルボヤと呼んだ。異極鉱はニコメの中にもボヤの中にも出たが、標本としてはやはり崩れにくいニコメの方が有り難いだろうと思う。