178.風景の石 Picture Stone (中国産) |
石が描き出す模様は、昔から人々の興趣を誘った。画家が手を加えなくても、そこには美しい山水や動植物の姿、時には人物のシルエットが印されている。人が為すべきはただ、石を割り、隠されていた絵を顕わにすることだけ。
上の標本は、あたかも奔流のよう。黒、緑、白の貴石で縁取った額に、切り出した絵を嵌め込んだ。
中国にはこうした石が沢山あって、たとえば雲南省の大理に行くと、「流沙漂茫」とか「渓山霧幻」とか、好き勝手な讃を添えた大理石の山水画が土産物として売られている。一枚数百円なので有り難味は薄いが、やはりとても美しい。
次の石は、いわゆる忍ぶ石(デンドリックストーン)と呼ばれるもの。羊歯植物の「忍草」に似ているのでその名がある。二酸化マンガンが樹枝状に浸透して、シルトや大理石のキャンバスに不思議な模様を浮かび上がらせる。どんなパターンを読み取るかは、見る人の感性次第だ。その昔、この種の石は、太古の植物の化石だと思われていた。
cf.イギリス自然史博物館の標本 Rhaetic limestone (イギリス、ブリストル、コッサム産)
下の標本は若干説明を要するが、残念ながら私にはその能力がない。変哲もない石に虎の姿が描き出された造化の妙、と言いたいところだが、一緒にネズミや龍、ブタ(猪)柄の石が並べられ、ブタのしっぽなぞ、ご丁寧にくるりと輪をかいてたりするのだから、さすがに自然に出来たものではあるまいと気づく。虎の部分は、どうやら白っぽい砂粒を固めたものらしい。
「これ買うから、作り方を教えて?」と訊ねてみたが、「自然の石。ホンモノ!」と、売り子の小娘子(しゃおにゃんつ)は、一歩も引かないのだった。