202.曙光石/あけぼの石  Eosphorite  (ブラジル産)

 

エオスフォライト、エオスフォル石

えっ、横綱? いやあ、それほどでも…はははは。

エオスフォライト/曙光石/あけぼの石
−ブラジル、M.G.、アラスアイ・イチンガ地方タクァラル産

チルドレン石−ブラジル、M.G.州リノポリス、ロベルト鉱山産

 

マンガンの燐酸塩鉱物。コネチカット州で最初に発見された時、この石は明け初める空のピンク色をしていた。それで暁の女神イーオスに因む美しい名前を授かった。和名の「あけぼの石」は、ある鉱物商さんが言い出しっぺ。学者方では「曙光石(しょこうせき)」と呼んでいるが、私は語感のソフトな前者が気に入っている。
地味な鉱物だが、世界的に有名なブラジル、タクァラル産のローズクオーツ(結晶)に伴うことから、わりと知名度がある。ローズクオーツの発色が燐酸によるのではないかという説は、この組み合わせによって仮定され、実際にロシアの学者の手で燐を含んだ紅水晶が合成された(薔薇の名前参照)。やはりピンクに縁のある鉱物なのだろう。

マンガン成分が鉄に置き換わるとチルドレン石になる。あけぼの石の結晶はピンクがかった色で柱状かつロゼッタ状(花弁状集合)になることが多く、チルドレン石は茶色がかった色で板状かつ単独に結晶する傾向がある。マンガンと鉄の、それが気質の違いなのだろう。

 

付記:ロシア、コラ半島ロボゼロの閃長岩ペグマタイトに産するピンク色の針状鉱物にザリャー石(Zorite)がある。ザリャーはロシア語で、「あかつきの淡い紅色」の意。訳せば、淡紅暁石。井上様よりご教示。(※ google 翻訳など、正調では別の発音が示されており、あるいは訛りが入っているかも。)

追記:タクァラル産と標識されるあけぼの石は、タクァラルのラブラ・ダ・イラ鉱区に産するものと目される。1969年に産出報告があり、70-90年代にかけて出回った。ラブラ・ダ・イラ・ペグマタイトは Jequitinhonha 川の中にある小島で、採掘坑は平均水面レベルよりも低い。洪水などで水位が上がると水没し、採掘再開はなかなかに面倒な仕事になるという。1973年にはガリンピエロと呼ばれる鉱夫 40名ほどがペグマタイトを掘っていた。あけぼの石は紅水晶や珪岩上に可憐な花弁状の結晶集合をなして産する。
組成 Mn2+Al(PO4)(OH)2・H2O。この産地では成長に伴う縞状構造の見える結晶があるが、ある部分は鉄分に富む含鉄あけぼの石という。一般に鉄置換体に相当するチルドレン石と共産する産地も多い。

チルドレン石は組成 Fe2+Al(PO4)(OH)2・H2O。あけぼの石との間に連続的な固溶関係があると推測されているが、チルドレン石の分析報告はほとんどが端成分に近い組成(マンガンをあまり含まない)を示しているという。原産地はイギリス・デボンシャーのタビストックで、同国の化学者J.G.チルドレン(1777-1852)に献名された(1823年)。
画像のチルドレン石はホリ通販リスト76 (1994年)で購入した品で、「children は人名であり、子供の石という訳ではない」と注釈されている。そりゃまあ、そうだ。4-5cm大の結晶はこの鉱物としては「特上クラス」、の文句にクラっときた。

余談だけれど、スミソニアンの J.S.ホワイトがまとめた所蔵品解説本(邦訳「地球のしずくたち」)に、「曙光石」の塁帯構造のコラムがある。昔ある老舗標本店さんで、私は「あけぼの石」がどうたら…と言わでものことを言い、私の何万倍も知識を持っているに違いない店主さんらに「あけぼの石とは何ですか?」と慇懃に問われた。「あ、エオスフォライト Eosphorite です」というと、「ああ、曙光石ね。なるほど、あけぼの石。」と言い直されて、すごく恥ずかしかった。ちなみに近山宝石大事典に「和名は曙光石」とある。宝石になるのか? (2020.5.5)

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