203.エレミヤ石 Jeremejevite (ナミビア産) |
ナミビアの海岸沿い、マイル72と呼ばれる国営フィッシングキャンプの近くで、美しい青紫色の宝石が見つかったのは、1973年のことだった。旦那さんの運転するグレーダー(道路の地ならし車)の後をついて歩いていたタニー・クリッピー(小岩おばさんくらいの意味らしい−なんか頑丈そうだな)という女性が、グレーダーの飛ばした青いかけらを拾ったのが始まり。その石は偶然地元宝石商の目に止まって、エレミヤ石であることがわかった。ただちに鉱区が申請され、今や伝説となった数々の標本が世に現れた。
3年後に鉱山は閉ざされたが、1998年、アメリカの標本商と地元鉱山会社とがジョイント・ベンチャーで再開発を行い、翌年の3月晶洞に当たって約300個の結晶を得た。ただ、その色は麦わら色〜無色で、青い石は皆無に近かった。さらに4000トンと言われる岩石が砕かれたものの、新たな晶洞の発見に至らず事業は終焉。ナミビアのエレミヤ石もこれまで、と思われた…。
ところが。2001年の初め、内陸部のエロンゴ山にエレミヤ石が出たのである。しかもビビッドなヒマラヤケシの色。この山はアクアマリンやトルマリンなど宝石鉱物の産地として数年前から採掘が始まり、劣悪な環境の中、数百人の鉱夫たちが手掘り作業を続けている注目の土地だ。
20余年の時を隔てて復活した青い石に、世界中の愛好家は狂喜乱舞した。私もその一人。色の濃いものや母岩付きには手が出ないが、淡色の分離結晶と小さなルースを手に入れて、むふふ気分。エロンゴ山では、すでに3000個以上の結晶が採集されたそうで、これだけあれば欲しい人に十分行き渡る。しかも、まだまだ出てきそう。今私たちはそろって幸せをかみしめているところだ。
付記: Jeremejevite, Jeremeiewit, Jeremejewite,
Jeremejeffite, Eremeyevite, Yeremeyevite など、いくつかのスペリングが併存する。発音は、エレメージェーバイトがもっとも原音に近いというが、本当かどうか…(イェレメイェファイトが近いともいう)。鉱物学者
P.V.エレメイエフに因む。日本ではジェレメジェバイトの表記が多い(最近は「エレメエフ石」とも)。私はエレミヤ石と呼んでいる。
エレメイエフの名はロシア語ではイェレメイエフだからとの理由で、イェレミア石、イェレメエフ石と表記する向きもあるが、これはエルサレムをイェルサレムと表記するのと同じ理屈で(エレミアをイェレミアと)、私としては日本語にない音を無理に取り入れることはないと思う。
cf.イギリス自然史博物館の標本(シベリア、ソクチュイ山地産) 原産地ソクチュイ・ゴーラの鉱山長 J.I.Eichwald に因んで Eichwaldite アイヒワルド石とも呼ばれた。
cf. 鉱物記 フラグメンツ かけらの4