210.滑石  Talc   (イタリア産)

 

 

ちょっと美味しそう…かな?

滑 石−イタリア、インプラネータ産

タルク −USA、テキサス州、ヴァン・ホーン産

石筆の原料であるロウ石のサンプル。
クレヨンのように切って、鋼板などのケガキ
に用いる。溶接加工などで熱を加えても、
ろう石の耐熱性により、線が消えない。
右側は切断面。

 

滑石(タルク)はモース硬度1の鉱物で、爪を立てると簡単にキズがつく。手にすると脂蝋感があっていかにも柔らかそうだ。粉末にしたタルカム・パウダーは化粧用の打ち粉として有名。日本では「油おとし」、「油すき」に用いられ、その名で呼ばれることもある。
凍石は緻密な滑石の一種で、印材や置物に用いられ、加工しやすいが触感はやや硬い。熱の伝導性が低いので、鍋敷きや灰皿によい。この他、紙やゴム、繊維産業でも重宝され、それぞれのマテリアルに滑らかさを与えている。しかし、滑石で面白いのは、なんといっても食材としての用途であろう。No.207(重晶石)に続いてフェルスマンの言葉を聞こう。

タルクまたは滑石と呼ばれる石は、やわらかさと可塑性をもっているので、お菓子とアメの中で非常に役立っている。たしかに外国では製菓業で少なからぬ滑石が使われている。胃にとって滑石は多分たいして害にならないとはいうものの、ご馳走の正常な部分ではありえないのだが。

各種の食品に、鉱物質の物質を混入することは、資本主義社会では、ごくあたりまえのこととなっている。まだ中世の時代、鉱物性物質が、粉やパンに目方を増すために混ぜられていた。重晶石、白亜、石膏、菱苦土石、粘土、砂などの土壌質、または粉末になりやすい白色鉱物が用いられた。
資本家たちは他の食品を鉱物で水増しすることも忘れていない。たとえば、牛乳やクリームには白亜や石灰やマグネシウムを混ぜ、バターには水、ミョウバン、塩、粘土、石膏、白亜を含んでいる。蜜には粘土、白亜、砂、滑石、重晶石が水増しされ、菓子には石膏、重晶石、粘土、滑石などが混ぜられる。砂糖は石膏、白亜、重晶石で目方を増やされる。<おもしろい鉱物学>

ということだが、こうした鉱物を加えることによって、食べ物が柔らかくなり、味がまろやかになり、あるいは医薬的効果を発揮することを人類は古くから知っていたらしい。分量が増えるので、腹の足しにもなる。しかも、儲かる。
ちなみに19世紀になって板チョコが流行した時、イギリスの商人たちはカカオに粘土や煉瓦を加えて巨利を上げた。しかし、やりすぎてカカオバターより混ぜ物の方が多くなったため、ついに加工食品に内容物表示を義務づける法律が制定されることとなった。やっぱ、ほどほどにしないとね。ぼちぼちやるのが長持ちの秘訣。

cf. No.358 蛇紋岩の玉

追記:漢方薬に「滑石」と呼ばれるものは尿道結石を治す薬で、ハロイサイト Halloysite Al2Si2O5(OH)4 を成分とする。一方タルクは Mg3Si4O10(OH)2 である。益富博士は、成分が異なるから薬理作用も異なる、混同を避けるためにタルクを滑石と訳してはならない、と提言している。
漢方の滑石が結石を溶かすことによって治療するのであれば、タルクに同じ作用があるかどうかが問題である。しかし潤滑剤となって結石の通りをよくするのであれば、案外、タルクも同じ用をなすかもしれない。ならば滑石と呼んで問題ない。

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