216.緑泥石 Striegovite (ドイツ産) |
花崗岩は美しい斑紋のある岩石で、建築用の石材として古くから愛されてきた。人々は花崗岩が地表に露出した場所を見つけると、そこから石塊を切り出して周辺の国々へ運び、磨き、数々の壮麗な建造物に仕立て上げたのだ。
露頭の巨塊を割っていくと、時折ぽっかり開いた穴が見つかることがある。こぶし大くらいの小さなものから、ときには人が立ったまま入りこめる大きなものまで。中には粘土がいっぱいに詰まっていたり、あるいは水晶やトパーズなどの結晶が族生していたりする。この部分は石材に適さないので、石切り場では端材として放置しておくのが常だった。
鉱物愛好家は、しかし、そうした端材の中から、大好きな結晶鉱物を拾い上げては恍惚感に酔いしれてきた。その際、丁場を預かる石工には、ちょっとした「お礼」を包むのがマナーであった。
今は安全管理上の理由から一般人の立ち入りを禁止する現場が多くなり、そうした牧歌的な風習は廃れがちだと聞く。また、鉱物標本がお金になることが知られ、美しい標本はそれなりの値段で「売買」されるらしい。ちょっと残念な気もするが、まあ資本主義とはそういうものだ。(cf.
No.701 補記)
上の画像は、シレジア地方の花崗岩ペグマタイトで採れた古い標本で、やや分かり難いが、煙水晶(中央左寄り)、紫色の螢石(中央右寄り)が認められる。暗灰緑色の粉末状の鉱物は緑泥石グループの鉱物シャモス石(鉄緑泥石)の亜種で、Striegovite
という。手持ちの鉱物書には何の記載もないが、ストリーガウ地方に産したので、この名前があると推測している。(※
1869年に E.ベッカーと M.
ウェブスキーによって報告された。産地名に因む。)
下の標本は岐阜県苗木地方産。正長石の大きな結晶を苗床にして、煙水晶や淡青灰色の曹長石が育っている。
ご覧のように、ひとくちにペグマタイトといっても、その表情は晶洞ごとにずい分違っている。
note:Striegovit (Chamosite var.c.f. Klockmann 1892) /specimen from K.S.Mineralien-Niederlauge zu Freiberg (1880-1920)