217.轟石とラムズデル鉱 Todorokite&Ramsdellite  (日本産)

 

 

轟石 −青森県西津軽郡岩崎町丸山鉱山産

轟石 −静岡県賀茂郡松崎町 池代鉱山産

ラムズデル鉱 (& 轟石? )
−静岡県下田市寝姿山(万蔵山)産/旧前島標本

 

日本で最初に発見された新鉱物として名を轟かすのが、轟石である。原産地は北海道余市郡の轟鉱山で、1934年に繊維状結晶の集合物が報告された。日本近代鉱物学の黎明が明治初期であったことを想うと、新鉱物の登場がずい分遅いように見えるが、実は、1879年のライン鉱、1882年の緑ばん土鉱(Japanite)など、轟石に先行して報告された17種の新鉱物は、その後みな既存種に併呑されてしまって、生き残った一番上の兄がこの石なのである。

二酸化マンガン鉱物のひとつで、いかにもそれらしい(消し炭のような)地味さながら、繊維状・羽毛状の特徴的な外観があり、この種の鉱物としては鑑定しやすい方だといわれる(見かけ上の比重が普通の二酸化マンガン鉱よりずっと軽い)。結晶度が低いと土状で分かりにくいが、結晶度が高くなると金属光沢を示す。将来の金属資源として期待される深海底のマンガン団塊は本鉱を主成分とし、マンガン以外に各種の金属を含んでいる。
理想組成式は与えられていないと加藤博士が述べておられるが、 IMAリスト 2020-03 では (Na,Ca,K,Ba,Sr)1-x(Mn,Mg,Al)6O12·3-4H2Oとなっている。ナトリウムよりカルシウムが多いものもあるようだ。
上は青森県の丸山鉱山産のもの。中は池代鉱山産で、1957年に桜井・高須らによって報告された。池代ではほとんど単鉱物として産し、初生生成物と見られる。

下は静岡県の寝姿山産のもの。もっともそういうラベルがついていただけで、購入先とは別の懇意の標本商さんに、「ラムスデル鉱では?」とはっきり指摘された。ラベルに記載はないが、この産地のラムズデル鉱は銘柄品らしい(日本で唯一ラムズデル鉱の結晶が採れる場所だそう)。結晶(〜へき開面)を示す部分はラムズデル鉱で、轟石があるとしたら、その余の消し炭微粉状の部分でしょう、と仰る。ちょっと残念である。
ラムズデル鉱は流紋岩が固まった後、割れ目に沿って上ってきたマンガンを含む熱水から沈殿生成したとみられ、流紋岩中に黒色の脈をなしている。新鮮な面は鉄黒色で強い金属光沢を持ち、三方向に完全なへき開があり、よく輝く(但し風化していないもの。風化すると表面やへき開面から軟マンガン鉱やエンスート鉱に変化)。空隙に長さ1cmの自形結晶も出たことがあるという。

ラムズデル鉱は組成式 MnO2 の単純な二酸化マンガン鉱。 1932年にラムズデールは、サイロメーレン鉱、マンガン土と呼ばれていた多数の試料を検討したが、そのうち1試料だけが当時知られていた唯一の二酸化マンガン鉱だったパイロリュース鉱(軟マンガン鉱/正方晶系ルチル構造)と異なるX線回折像を示した(※補記1)
1943年にフライシャーとリッチモンドはニューメキシコ州レイク・バレー産の試料で同じ回折像を確認し、ラムズデール鉱と名づけた。パイロリュース鉱と同質異像(直方晶系)で、産出のまれな鉱物といわれる。

池代鉱山は下田から北西12kmにあり、安山岩中の二酸化マンガン鉱を採掘していた。轟石はここの主鉱石で、少し軽めの塊状をなし、断面が葉片状に見える。やや褐色味を帯びている。これより重くて黒っぽい塊は軟マンガン鉱という。

 

補記1:フライシャーとリッチモンドは 1942年にクリプトメーレン鉱(硬マンガン鉱)/単斜晶系を報告するが、その後、サイロメーレン鉱と呼ばれたものの多くはクリプトメーレン鉱であることが明らかにされる…??  cf. No.311 ホランド鉱 追記

補記2:このページは最初にアップした時(2002年)には寝姿山産の標本だけを載せて、標本ラベル通りに「轟石」としていた。その頃、有名コレクターだった故前島氏の標本がある標本商さんの手で市場にまとまって出ており、その一品を入手したものだった。
私は轟石もラムズデル鉱も知らなかったので疑問に思わなかったのだが、サイトをご覧になった国産収集家の方々には一目瞭然で「ラムズデル鉱」と判ったらしく、「草葉の陰で前島氏もびっくりされているだろう」などと失笑された。その後、いろいろな博物館で「轟石」や「ラムズデル鉱」の標本を見る機会があり、「なるほど、見た目からして大分違うなあ」と得心した。元のラベルはそのまま保管しているが、自前ラベルはラムズデル鉱としておいた。
ちなみに寝姿山はもとは万蔵山と呼ばれたが、女性が横たわった姿に似ているということになって、この名がついたそうだ。スリーピング・ビューティみたいなものか。 (2020.6.5)

cf. No. 311 (追記/ 二酸化マンガン鉱)  ハーバード自然史博物館所蔵の轟石の標本⇒リンク   ひま話 前島標本

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