218.ヘッス鉱 Hessite (USA産) |
Ag2Te。すなわち、銀2:テルル1の組成を持つ、ルーマニア原産の希産鉱物。
テルル(tellurium)は、O(酸素)−S(硫黄)−Se(セレン)−Te(テルル)
−Po(ポロニウム)と続く6B族系列に属する元素で、半金属(メタロイド)といって、金属でもないのに金属のような性質を示す。
語源の tellus
はラテン語で地球を意味し、ローマ神話の大地の女神の名でもある。1798年、クラップロートが命名した。彼はその10年前、ピッチブレンド(層状閃ウラン鉱)から得た未知の元素に、当時発見されたばかりの新惑星ウラノス(天王星=天の神の星)を当て、ウランと命名していた。この度はその向うを張ったわけだ。
ちなみに上記系列中、硫黄とテルルの間に挟まって未発見だったセレンは、1817年になってベルツェリウスとガーンが、硫黄(含セレン硫黄)を燃焼させた沈殿物から抽出し、ギリシャ語のSelene(セレーネ・月)に因んで名づけた。こちらはテルル(地球)の妹分だそうな。当時の科学者たちは、試験管の中の吹けば飛ぶよな物質に、壮大な天界絵巻を夢想していたらしい。
私はこの標本について、ほとんど思い出らしいものがないのだが、ヘッス鉱はロシア圏(精確にはトランシルバニア)のクラッシック標本のひとつに数えられており、その断片的な知識が購入へ誘ったことを告白しておく。命名は
1843年 J.
フレーベルに拠り、試料を分析したロシアの(ドイツ系)化学者ゲルマン・ヘンリー・ヘス(1802―1850)に献名された。自形は稀。
ユーレカSTD鉱山の1100フィートレベルで採集されたもので、若干量の金を含む。ヘッス鉱としてはリッチな標本である。テルルは金や銀と化合物を作ることが多く、この種の鉱物を愛好家は「テルル金銀鉱」と称して珍重している。
cf. No.732 自然テルル (ヘッス鉱とペッツ鉱)、 No.828 セル石 ウィーンNHM蔵標本