224.菱亜鉛鉱 Smithsonite (ナミビア産) |
亜鉛の炭酸塩である菱亜鉛鉱は、かつてカラミンと呼ばれていた。No.174で異極鉱がカラミンの別名を持つことに触れたが、西洋では昔、真鍮の原料となる亜鉛鉱石をしかく総称していたのである。No.223の水亜鉛土もカラミンの一種で、「土状カラミン」と呼ばれた。
試みに研究社の新英和大辞典(第五版)を翻くと、
Calamine:
1(薬学)カラミン(酸化亜鉛と約5%の酸化第二鉄から成る水に溶けないピンク色の粉末;皮膚の炎症を治療するのに軟膏状または外用水薬として使う。 2(英)(鉱物)異極鉱、カラマイン 3(英)(鉱物)=Smithsonite
Calamine brass:
(冶金)カラミン黄銅(炭酸亜鉛と銅から作った昔の合金、金の模造として使われた)
とあり、炭酸亜鉛=菱亜鉛鉱がカラミンであったことを裏付ける。ついでに、
Smithsonite:
(James Smithson これを calamine と区別した) (鉱物)1菱亜鉛鉱(炭酸亜鉛を主成分とする亜鉛の重要鉱石) 2異極鉱
とある。補足すると、スミッソン氏は1807年に酸化亜鉛鉱と混同されていた鉱石の成分が炭酸亜鉛であることを証明し、これが端緒となってカラミンは炭酸亜鉛鉱と酸化亜鉛鉱(異極鉱)とに2大別されることになったのだ。炭酸亜鉛鉱は氏が亡くなって3年後の1832年に、スミソナイト(菱亜鉛鉱)と命名された。
また Dry bone: (鉱物)=Simithsonite (dry-bone ore)
の項目があり、ドライ・ボーン(干からびた骨、骨と皮ばかりの意味)と呼ばれていたことも知れる。これは産状に因んだ名前で、多孔質の蜂の巣晶脈状の本鉱を指す、鉱夫用語だったらしい(下の写真参照)。
ちなみに菱亜鉛鉱や異極鉱の混合物を指すのに、カラミンと同様、Galmei(ガルマイ)という呼称も用いられた。
No.108でぶどう状の標本を3点紹介したので、今回は結晶面の見えるものを3点選んだ。
赤(ピンク)色は面が湾曲しているが、基本は菱面体。黄色はわりとはっきりした菱面体。緑色のは擬似5角形の結晶面が見える。結晶図を参照すると k面にあたるようだ。赤・黄・青で信号機?
参考:スミッソン氏の没後、莫大な資産が姪に遺贈された。彼女は相続人をもたずに亡くなった。資産はアメリカ政府の所有となり、やがてスミソニアン協会の基盤として役立てられた。
補記:銅を含んで緑色(リンゴ緑〜濃緑色)に着色したものを、 Herrerite と呼ぶ(亜種名) ちなみに鉄を含む褐色のものをブライトハウプトは新種として Kapnite と命名した。和名は鉄菱亜鉛鉱。今日では菱亜鉛鉱の亜種とされている。