243.デマントイド Demantoid (ロシア産) |
デマントイドは草緑色の美しい石で、鉱物種としてはアンドラダイト(灰鉄ザクロ石)に分類される。灰(カルシウム)と鉄を含むガーネットの謂いだが、緑色はクロムを含むことに因る。
この石は1860年代(1853年?)、ウラル山脈の川床の砂礫を掘っていた金鉱夫たちによって偶然発見され、その後ボブロフカ川沿いの蛇紋岩中に初生鉱床(鉱物用語では
"in situ" という)が見つかった。
例によって最初はエメラルドだと思われ、次にかんらん石(オリビン)だと思われ、ウラル・オリビン、ウラル・クリソライト(cf.
No.36 追記3)などの名前でヨーロッパ市場に出回ったという。ダイヤモンドに匹敵する輝きと鮮やかな緑色が脚光を浴び、19世紀後半を彩る宝石のひとつとして、ロシア王室はじめ各国の愛好家を惹きつけた。やがてザクロ石の一種であると分かったものの、すでに商品(名)が普及していたため、オリビンにこだわった宝石商たちは、オリビン・ガーネットという新しい名前を考え出した。ボブロフカ・ガーネットともいう。
1917年のロシア革命以降、採掘が途絶え、しばらくは「幻の宝石」扱いにされていた。しかしソ連邦の崩壊後、川床を浚って採った緑色の石をカットして売るといいお金になることが知られ、地元の人々の間でちょっとした小遣い稼ぎが流行した。結果、今ではわりと豊富に流通している。
もともと宝石用の原石は、主に風化した砂礫中に見つかるもので、初生鉱脈中の石は概して質が劣り、せいぜい標本程度に留まったという(こういう言い方って、鉱物愛好家にすごく失礼だよな)。
しかし最近、クラドフカの古い鉱山から宝石質のものも出るようになった。
クラドフカはエカテリングルクから車で2時間の距離にあり、鉱山は市内から10キロほど離れた場所にある。2002年5月、カリフォルニアとモスクワの宝石商が組んで資金を出し、この歴史的な鉱山の再開発に着手した。7月には深い森の中で旧坑(ピット)を探し当て、やがて「ツアー(ロシア皇帝)の宝石」を含んだ鉱脈に至った。夏から秋にかけて、6人がかりで掘りたくり、4,5カ月の間に約8.3Kgの宝石質原石を回収したという。今年はまた5月にシーズンが始まる。採集された原石とカット石は、先のツーソンショーでお披露目された。上の標本は、その時ついでに売りに出たもののようだ。
追記:「デマントイド」はこのザクロ石の鉱物学上の名称で、ダイヤモンドもどきの意味である(オランダ語のデマント=ダイヤモンドに因む)。1878年に命名された。
追記2: " in situ " イン・シツ イン・シチュ ラテン語で「元の位置に」の意味。自然体。鉱物学に限らず、いろんな状況で使用可能。