244.灰鉄ざくろ石 Andradite (ギリシャ産) |
No.243のデマントイドとこのページの標本が同じ鉱物種だというと、うそっぽく聞こえるかもしれないが、本当である。昔ある知り合いが、「この石が蛍石だというなら、どうしてこれが蛍石なのか、それが分からない!」と色と結晶形の違う二つの標本を前に宣言したことを思い出すが、鉱物にはときどきそういう不思議なこと(?)があるのである。説明はできないけれど、蛍石ならなんとなくそれと見分けられる気がする。しかしデマントイドと上の標本との共通性は私にも分からない。まあ、そういうものと覚えるよりなかろう。
ギリシャのセリフォス島はアテネ南方の多島海に浮かぶ縦横7〜8キロ程度の小さな島である。このあたりはどこもかしこもスカルン(注記参照)だらけで、いわゆるスカルン鉱物の宝庫といわれている。ローマ時代以降、この島の最大の産業は鉄鉱石の採掘だった。坑道掘りばかりでなく、二次大戦頃まで露天掘りも行われていたというから、かなり豊かな鉱床だったのだろう。
鉱物標本としては、従来、珪灰鉄鉱(Ilvaite)が有名銘柄だったが、1988年にざくろ石と、灰鉄輝石(Hedenbergite)を内包した筆先状の緑水晶が大量に出回って、以来すっかりお株を奪われた観がある。アンドラダイト<Ca3Fe2(SiO4)3>は、「普通のざくろ石(コモン・ガーネット)」または「黒ざくろ石」と呼ばれるが、この産地ではスカルンの晶洞や亀裂を灰鉄輝石が縁取った上に、黒〜茶色〜こはく色の12面体あるいは偏方24面体の整った結晶形をなして産出する。上の標本がそれ。
下の標本も同種の産状だが、12面体の傾向が強い。稜の部分と面の中ほどで色が違うのが特徴で、ユーモラスな印象を与えてくれる。この2色ガーネットも今では銘柄品といえるかも。
注記:スカルン−純度の高い石灰岩や苦灰岩の岩塊に、熱い花崗岩マグマが貫入して作られた接触変成帯。前者に由来するカルシウムと、後者に由来する珪素や鉄やアルミやマグネシウムとが出会ってさまざまな鉱物が形成された接触部分(熱影響部分)。石灰岩は熱変成により大理石化していることが多い。アンドラダイトは鉄分の豊富なマグマが貫入した時に出来やすい。
「スカルン」(Skarn)とは、スウェーデン語で「ロウソクの灯芯」の意。この種の鉱床では産出鉱物はロウソクの芯のように繊維状により合わさって、一つ一つが区別出来ないため、鉱夫たちの間でそう呼んでいたことによる。もとは一種の符丁。