245.アルマンディン Almandine (ロシア産) |
アルマンディンという名前の起源は、少なくともプリニウスの時代(AD1世紀)に遡るというから、随分と古いものである。彼の博物誌の宝石の巻には、
(赤い宝石のうちで)、最高の地位を占めるのは紅玉である。火のように赤い色をしているのでこの名があるのだが、火にはおかされない。そのため時に、アカウストエ(不燃性の石)と呼ばれる。それには二種類あって、インド紅玉とガラマント紅玉である。後者は大カルタゴの富を連想させるため、ギリシャではカルタゴ紅玉と呼ばれた。これらの種類にエチオピア紅玉とアラバンダ紅玉が加わる。後者はカリアのオルトシアで発見され、アラバンダで処理されるとのことだ。
と記されている。アラバンダはトルコ・アナトリア高原の一都市で、昔ここで作られたガーネットの細工物が各地へ送られ、いつしかアルマンディンと訛って呼ばれたものらしい。当時はルビー、スピネル、ガーネットなどの区別がさほど厳密でなく、いずれも紅玉に名を連ねていた。ただ、アルマンディンの翳りは、ほかの石ほど古人の心を捉えなかったとみえ、後節に、
多くの著作者たちは…アラバンダの紅玉は他のものより黒ずんでいるし肌も荒い、と言う。
とある。
この石は、和名(鉄礬柘榴石)が示す通り、鉄と礬(ばん/アルミニウム)を成分に持ち、鉄分のために暗赤色を呈する。苦ばんザクロ石(パイロープ/紅柘榴石)との間で固溶体をなして産出することが多く、鉄の一部はマグネシウムに置き換わっているのが普通である。端成分(理想組成)に近づくほど色が黒っぽく不透明になっていくため、古人の評価もよしなしとはいえない。
産出範囲が広く、変成作用で生じた雲母片岩をはじめ(上の標本)、ペグマタイト(No.211の標本)や片麻岩、安山岩中にも見られる。アンドラダイトと並んで、「普通のザクロ石/コモン・ガーネット」と呼ばれるが、この場合のコモンはコモン・オパールと同様、プレシャスに対する語で、宝石種でない、ありふれた、の意味を含んでいる。古くから研磨材としても盛んに利用された(奈良の金剛砂など cf. No.762)。
鉄やマンガンに富む鉄ばんザクロ石と満ばんザクロ石とは偏菱24面体を基本とした結晶形で、カルシウムに富む灰ばんザクロ石は直方12面体を基本とする。後者の断面は正方形や六角形を見せることが多い。
茨城県真壁町山の尾のペグマタイトには四周完全な24面体の紅色結晶(鉄ばんザクロ石)が出て、かつて標本店を賑わせたという。土地の人は昔から24角石と呼んだ。数えたのだろうね。ちなみにこの産地にザクロ石を中心に白雲母が菊花状に広がった石が出て、益富博士は「山の尾の矢車菊」と愛称した。カラー自然ガイド「鉱物」の写真
79.1
に同地の標本が載っているが、ここでは「ヒマワリの花のよう」と形容している。お気に入りらしい。
柘榴石は d(110)、n(211)を主面とする結晶を作る。
一般に火成のものは n 面が発達し(cf.No.211)、
接触成因のものは d
面が優越する傾向がある(上の画像)。
備考:固溶体−二つ以上の端成分の鉱物が任意の割合で混じりあって、一つの均一な組成の個体(結晶)をつくっているもの。天然の鉱物の大部分は固溶体になっている。ここでは、Fe3Al2(SiO4)3アルマンディンと、Mg3Al2(SiO4)3パイロープの二つを端成分とし、Feの一部がMgに置換されているのである。
cf. No.860 礬類(ヴィトリオール)の語義