267.ウレックス石 Ulexite (USA産) |
世界に冠たるほう砂産地ボロンは、およそ1800万年前(中新世)に出来た塩湖の跡で、主力鉱床は1x 3キロ四方という広大なエリアに、厚さ最大100mの層をなして堆積しているという。ほう砂層の下部は、湖床を形成する緑色の頁岩と、ウレックス石を主体とするカルシウム硼酸塩鉱物とに取り巻かれている。この産状を辿れば、湖に流入して濃縮〜沈殿したほう砂の原成分は、湖床から供給されるカルシウム分と出会って、境界部にウレックス石(NaCaB5O6(OH)6・5H2O)の層を作ったと考えることが出来る。
本鉱は、1850年、発見者(成分決定者とも)のドイツ人化学者ルドヴィッヒ・ウレックスにちなんで命名された。原産地はチリのイキケである。単体の自形結晶は稀で、もろい針状結晶が集合した球果となって産出することが多い。かつてはボラックス製造の重要な原材料であった。
アメリカのデスバレーでは、19世紀の中頃、中国系の移民集団が谷底の干上がった湖床から球果状の本鉱を採集していた。彼らはこれを「コットン・ボール」と呼んだ。ぼろ綿の塊みたいだったのである。採掘は1882年に上流の山脈からコールマン石の優秀な鉱床が発見されるまで続いた。1849年に始まるゴールド・ラッシュは、カリフォルニアに多くの金ハンターを集めたが、本当に儲けたのは彼らでなく、むしろブームが去った後もこの地に残ってほう砂産業に携わった人たちだったという。
ウレックス石のもうひとつの産状は、極めて長い繊維状の結晶が平行に集合したもので、これは脈を充填するように生成する。この種の集合体の断面は絹糸光沢とシャトヤンシー効果を示し(上の画像)、さらに光学的なファイバー効果を持っている。結晶繊維の束を裁断するように両端を切って磨き、一方の切断面に絵や文字を描いた紙をあてると、そのイメージが繊維を伝って、反対側の面に浮かび上がって見えるのだ。この性質により、本鉱はテレビ石とも呼ばれている(アメリカでは「テレビジョン・ストーン」)。古く Boronatrocalcite と呼ばれ、和名の曹灰硼石はその流れを汲むのであろうか。お湯に溶けるし、爪で引っ掻くとキズがつくので、ご注意を。
cf.No.445 中沸石 (コットン・ストーン)