270.ハンクス石 Hanksite (USA産)

 

 

ハンクス石−USA、CA、サールズ・レイク産

 

一見、くすんだ両頭水晶のようだが、どことなく方解石に通じる暖かみがあり、手にとると軟らかい触感がある。また標本によって天辺に平らな六角面(c面)が見えることもある。これがハンクス石で、カリフォルニア、サン・ベルナルディーノ郡の干上がった塩湖、サールズ・レイクの名産品だ。
同州では 18世紀末頃から知られ、硼砂鉱山の鉱夫らは当初、氷(アイス)と呼んでいたが、成分分析によってテナルド石と判断された。吹管分析のため含有する炭酸成分が看過されたのだ。その後、1884-85年にカリフォルニアの物産がニューオーリンズで展示された時、ウィリアム・アール・ヒドゥン(ヒデナイトに名が残る)の注意を惹いた。新種ではないかと調べてみると、果たしてそうだった。そしてカリフォルニア州初のステート・ミネラロジストであるヘンリー・ハンクスを記念してハンクスアイトの名を贈った。1885年だ。
サールズ・レイクでは、岩塩ほう砂、トロナ(ツロナ/天然ソーダ)などと共産する。いずれも蒸発残留物として生じる鉱物だが、ハンクス石やほう砂は、まず岩塩が結晶化した後で、さらに水分の蒸発が進んでから姿をあらわすのが普通である。
化学組成は、KNa22(SO4)9(CO3)2Cl。硫酸イオンと炭酸イオンの双方を持つ(このような鉱物は数えるほどしかない)、珍しいハロゲン化物だ。舐めると塩からい。

私は本鉱について予備知識を持たずに標本を買ったので、最初のうちはそのまま引き出しに蔵っていた。1年ほど経ってから、「保存にはオリーブオイルを塗っておくべし」と知った。あっ!と思って標本を確かめたが、時すでに遅し。表面に真っ白い粉が吹いていた。ハンクス石は湿気に弱いのだ。とりあえずティッシュで拭いて新鮮な面を出し、ヴァージンオイルを塗っておいた。それから8年ほど経つが、まあまあ無事に保っているようだ。オイルの腐敗が心配であれば、無機オイルを選ばれたし。要は空気接触を断つこと(でも、水に漬けてはダメ)。買った標本商さんには、その後ちゃんと保存方法を伝授いたしました。

 

追記:この湖ではトロナに拠点を置くサールズ・バレー・ミネラルズ(SVM)社が、硼砂やホウ酸・ソーダ灰・ソルト・ケーキ等を製造しており、その総量は年産 175万トンに及ぶ。毎年10月の第二週に、Gem-O-Rama(ジェムオラマ) という催しを開いて一般人の湖への立ち入り・鉱物採集の機会を提供していた。1941年頃に始まった名物イベントで、2018年まで 80年近く毎年続いた。(2019年に起こった地震で中止され、その後 2022年に開かれている。)
ロサンゼルスの北東 270kmにある人口3,000人弱のトロナの町は、この時期ほぼ同数の来訪者であふれ、「マッド・ラン」(土曜日)、「ブローホール」(土曜午後)、「ピンク岩塩日曜採集行」の3種のフィールド・トリップが行われた。ツアーはそれぞれ有料、SVM社の工場見学は無料、地元団体主催のジェム&ラピダリーショーも開催された。

「マッド・ラン」は、湖の安定した塩水溜りの下、深さ 3-3.5mあたりの泥床から黒っぽい土壌を大量に浚い出して積み上げておき、 150トンを超える巨大な山に参加者たちがとりついて、ハンクス石などの珍しい結晶を探すというもの。大きなものでは径10cmを超える六角樽形結晶が見つかり、トロナの刃状結晶群晶や岩塩、テナルド石、硼砂、希少なスルフォハライト(硫酸岩塩)等も出た。結晶を含んだ(含んでいそうな)泥塊を見つけたら、用意された塩水槽に漬けて洗い、泥を落とす(水で洗うと溶けてしまうのでダメ)。収穫品は完全に乾燥させ、薄く鉱油を塗っておくことが推奨された。

「ブロー・ホール」は土曜の昼休憩後の催しで、湖床の地下から噴出させた多量の結晶鉱物を野外採集するツアー。予め、収穫の期待出来そうな、かつ駐車エリアからあまり遠くない候補地を選定しておき、SVM社の爆破技術者が一連の爆薬を仕掛けて 8-12mほどの深さの孔を穿つ。爆破孔に圧縮空気を送り込んでゆくと、湖沼の鉱物質が空気と一緒に地上に吹き上げられてくる。この準備はイベントの数週間前に行われた。当日は同じ作業のデモンストレーションがあって、採集はそれが終わってから許可された。ハンクス石や、微小なスルフォハライトの八面体形結晶が連続して繋がった群晶などが得られた。

日曜日にはピンク岩塩の採集ツアーがあった。No.271追記に記す。(2026.1.18)

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