295.天青石  Celestite/Celestine (USA産ほか)

 

 
セレスタイト−USA、ミシガン州モンロー郡ニューポート採石場産

天青石 −トルクメン、カラクム砂漠、Beinev-kyr産

セレスティン −チュニジア、ハマーン・ズリバ産
(市場では重晶石として出ていることも)
 

とかく図鑑や事典は無味乾燥なオーラをまとって澄ましているものだが、時にその語り口に茶目っ気がにじみ、著者の人柄がこだますることがある。
木下亀城という先生は、「鉱物資源辞典」(1965 日本鉱物趣味の会)の序に、「一廉の武士たるもの、己の専門以外の分野で戦わねばならない時も、一応の戦いが出来るよう心がけねばならぬ」などと書かれていて、その一言だけで親しみが湧く。
事実、先生はどこからでもかかってきなさいといわんがため、折々集めた情報を、せっせとカードに書き溜めておられたそうだ。なにしろ武士だから。

というわけで、天青石(硫酸ストロンチウム)の説明は、上記の本をアンチョコに、安直に書き写させていただこう。ちょうど学生が教授の講義をノートにとり、試験に備えて丸暗記するように。

ストロンチウムは多くの火成岩に含まれ、その量の多いものは0.18%に達し、また地殻の平均成分中、その0.02%を占める。ストロンチウムは熱水溶液中にも濃集し、SrとCaとの割合は、岩石中におけるよりも水溶液中での方が大である。また海水中に、金属イオンとしては第5番目に多量に含まれており、1リットル中に13〜13.5mg、すなわちCa(カルシウム)の約30分の1含まれておる。

海成石灰岩中には少量の天青石を含む。それが循環水によって濃集され、天青石の細脈または結核をなす。ある場合には海水から硬石膏、石灰岩、苦灰岩と共に天青石の大塊を沈殿することがある。
中国湖北省応城県東湖系の粘土層および沖積層、英国のグロースターおよびサマセット地方の三畳紀層、ドイツ・ヴェストファリア地方の二畳紀層、北米テキサス・ユタ・アーカンソー州の白亜紀層中のものは海水から沈殿して水成岩の一部をなすものと称される。
北米カリフォルニア・ワシントン州などの鉱床も同種のものである。

シシリー島には硫黄鉱床に伴って産する天青石鉱床がある。東南カリフォルニアおよび西部アリゾナには凝灰岩と互層し、かつこれと漸移する鉱床があるが、これはおそらく硫気噴出物から沈殿したものであり、アヴァワッツ山脈に石膏およびマンガンを伴う鉱床として産するものは、鹹湖中に硫気ガスが噴出して生じたものとされている。ストロンチウム石は広く分布するが、天青石の風化物として生じたものでその量は多くない。

天青石は石灰岩の中に見つかる。
このことを頭に入れて、「石の思い出」をとり、「天青石」の章をひも解くと、若い主人公が女友達に語って聞かせるおとぎ話、太古の海、隆起するウラルの大地、再び広がった海、海の底でうごめく生物、そしてその遺骸が海底に沈殿して石灰岩となり、アカンタリア(放散虫)の刺から天青石の結晶が生まれた物語には、しっかりした教養が反映されていることに思い至る。ロマンから学問へ、学問からロマンへ。それがフェルスマンを導いたモチベーションだったかもしれない。
「君は覚えているね。青い空の石、天青石のことを。小っちゃな眼玉のような結晶が、ボルガ河右岸の白い石灰岩の中にあっただろう? あの石を採りにゆこう。あの石には、君の優しいまなざしも、春の日の輝きも、ボルガの青い深みも、全部入っているよ」

補記:ストロンチウム(Sr)とカルシウム(Ca)の存在度(単位 ppm) /ただし、この種の数値は目安程度。

  Ca Sr Sr/Ca
地殻中 36,300 450 5.6 x10-3
海水中 400 8 9.1 x10-3

ストロンチウムはカルシウムとともに人体に取り込まれてカルシウムたんぱく質や骨に蓄積される。飲料水や海藻、魚、ミルクなどが摂取源となる。

補記2:硬石膏はストロンチウムを多量に含むことがあるが、これが加水分解されて石膏に変化するとき、石膏はストロンチウムを取り込まないために、天青石が生じて石膏と共生する。

追記:画像の標本について。
上のニューポート産はニューポート市街に近いホロウェイ採石場から出たものらしい。ミシガン州南部からオハイオ州北・中部にかけては天青石の生成する地質が分布して、いくつもの産地が知られている。cf. CMNH
採石場が開かれてほどない 1983年に泥質物の詰まった晶洞中に多量の良標本が発見され採集された。85年以降は基本的に採集が許可されていなかったそうだが、折々市場に出回っていた。そして2002年のツーソンショーでまとまった数の良標本が出た。これはその一品。母岩は苦灰岩。当時、売り手はあまり宣伝してほしくなかったらしい。

2番目の標本はカラクム砂漠中の産地から出たもので、カスピ海沿岸の町クラスノボスクから北東へ250km の位置という。ベイヌー・クルはジュラ期の砂質・粘土質石灰岩の山で、夥しい空隙中に天青石の結晶を含んでいる。空隙の壁の周辺の赤橙色の部分も、そこから内に向かって成長した淡青色透明の部分も天青石。前者は鉄の酸化物を含むための着色。1970年代中頃から標本採集が始まって、米国の科学博物品通販大手のワード・ナチュラル・サイエンスが 80年代に扱った。その標本ラベルでは産地は Bejores となっていたそうだ。ソビエト解体後の90年代に多数の良品が市場に出た。

下の標本は20世紀半ばまで重晶石や蛍石を掘ったハマン・ズリバ鉱山に出たもの。鉱山は1958年に商業採掘を休止したが、90年代末に地下の採石切羽をさらに掘り進んで大きな部屋くらいの晶洞が発見され、良標本を出した。当初は重晶石と標識されていたが、パサデナ・カリフォルニア工科大がEDS試験によって天青石(ストロンチウム優越)と判定した。白色の母岩部は方解石/あられ石。

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