319.パパゴ石 Papagoite (USA産) |
昔、コロンブスがアメリカ大陸の岸辺に至った時、かの地で初めて出会った人々の優雅な振る舞いと親しみのある温和な性質は、彼ら西洋人の大きな感銘を呼んだ。コロンブスは日誌に、「この人たちは実に神とともに在る(En Dio:エンディオ)」と書き留めた。その言葉は後にアメリカ原住民に対する呼び名インディアンになった。
…という説が正しいかどうか分からないが、経済至上主義の中に育った者が、異文化−いわゆる発展途上国の−に接したとき、そのたおやかさに魅了される一方、自分たちの態度がいかにガサツで貧しいかに気づいて愕然とするのは、私たち現代の日本人が東南アジアに「企業進出」した当初、現地に駐在された多くの方が抱かれた感慨でもあった。
もっとも、そのような天国的状態は速やかに失われてしまうのが世の倣いである。
アメリカの場合はインディアンをリザーベーション(居留地)に押し込めるという形で、それが起こった。土地や資源の多くは、進出してきた白人たちのものになった。(→参考 ブラックヒルズ)
パパゴ石はアリゾナ州のとある銅鉱山に発見された鉱物で、美しい青色をした銅の水酸アルミノ珪酸塩(four-units
ring)である。その名は、かつてこの地に住んでいたインディアンのパパゴ族に与えられた。
同じ鉱山に産するアホー石は地名に、また同州クリスマス鉱山に産するアパッチ石はアパッチ族に捧げられており、インディアンの言葉を語源に持つ鉱物は案外に多い。一種の歴史的興味であろうか。ちなみにアリゾナとはパパゴ族の言葉で「水の乏しい土地」の意味。
また「パパゴ」とは「豆の人」の意(付記)。かつてパパゴ族は聖地であるババキヴァリ山の周辺で放浪の生活を送っていた。巡礼のときにだけ山を離れてソノラ砂漠を抜けてコルテス海まで旅をし、儀式用に特別な塩を持ち帰った。平和的な性向を持ち、ほかの民族(アパッチ、ナバホ族など)のように入植者や騎兵隊との国境争いをしなかった。アメリカ政府は彼らを臆病者だと考え、インディアンとの戦争後の居留地協定を結ぶ際に、パパゴ族の権利をまったく考慮に入れなかったという。しかし実際にはパパゴ族はどんな理由をつけようと「殺人」行為をよしとしなかっただけなのだ。エン・ディオの気質である。
付記:パパゴは、パパ(豆)・オオタム(人たち)という語の訛りで、コンキスタドール(白人征服者)がつけた呼び名。先住民自身はこれを拒否して、トホノ・オオダム(砂漠の民)と自称することが多いとか。