334.アルチーニ石 Artinite   (USA産)

 

 

アルチーニ石−USA、CA、サン・ベニト産

 

アルチニ石は蛇紋岩の風化によって生じる鉱物のひとつで、組成式はMg2(CO3)(OH)2・3H2O である。その形によって、なるほど、蛇紋石中のマグネシウムに、水と炭酸ガスとが反応したのだな、結晶水を含んでいるからきっと低温で析出したのだな、ということが分かる。(ほんとかよ〜)
ほとんど同じ見かけの鉱物に水苦土石(Hydromagnesite)があって、Mg5(CO3)4(OH)2・4H2O の組成を持つ。これまた同じようにして生成したことが推測されるが、実際、両者は共産することが多い。
本鉱が最初に発見されたのはイタリア、ランテルナ谷の石綿鉱山で、1902年ブルグナテリによって記載され、ミラノの学者エットーレ・アルチーニ博士に因んで命名された。

上の標本はカリフォルニア州サン・ベニト郡の蛇紋岩地帯に産したもの。このあたりの蛇紋岩は断層によって細かくちぎられ、かつ風化によりタルク化しているケースが多く、かつてはタルクや石綿の鉱山があちこちにあったという。(参考:No.29

話は横道に逸れるのだが、この標本は東京のとある標本商さんで求めた。その時、店主が、「この鉱物は日本でも採れますね。」とさりげなく仰られたのが忘れられない。鉱物趣味の本流は、やはりヤマを踏んでの自力採集にあるか。

補記:産地はニュー・イドリア地区のクリア・クリーク・キャニオン(清水谷)。1970年代初に蛇紋岩の風化断層に露頭が発見された。サン・ベニト山から西に1.5マイル、ジュニラ鉱山の北東わずか100mの地点という。「週末の気軽な採集行で、足のサイズくらいの標本が何百個でも採り放題」だった。微小な赤橙色の鉱物がついていれば、デゾーテルス石の可能性がある。

補記2:日本の産地は、例えば「日本の鉱物」(1994)に北海道中川郡宇戸内川産と、愛知県新城市吉川産とが紹介されている。後者は中宇利鉱山の北にあり、蛇紋岩の露頭からニッケルを掘った鉱山の跡地に多量のズリが残っていた。ズリ石の多くは蛇紋岩で、磁鉄鉱や微粒のヒーズルウッド鉱、ペントランド鉱を含んだ。蛇紋岩の表面を淡雪のように覆う各種の白色鉱物があり、アルチニ石のほか、ブルース石、あられ石、ネスケホン石、水苦土石、パイロオーロ石、「吉川石」が知られる。いずれもマグネシウムやカルシウムと水や炭酸ガスが反応して生じた鉱物である。アルチニ石は蛇紋石鉱物が出来た後、水苦土石が生じるより前に出来たとみられる。
「吉川石」は鈴木博士が1973年に発表した鉱物で、水苦土石にさらに水が加わったような組成という。これより少し水分の少ないものにダイピング石があり、現在はダイピング石と同種とされている。鈴木博士は1976年に中宇利鉱山から中宇利石を記載した。

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