335.ブルース石 Brucite  (ロシア産)

 

 

水滑石の結晶 -ロシア、ウラル、アスベスト、バゲノフスキー産

 

ブルース石はマグネシウム鉱石のひとつで、Mg(OH)2 のシンプルな組成を持つ。蛇紋岩、緑泥岩といった軽度の変成岩中に産するのが一般的で、あられ石、方解石、クリソタイル(石綿)、タルク等と共産する。
鉱石を高温下(4〜500℃)におくと水酸基が分解し、酸化マグネシウム(ペリクレース)に変化する。その粉末に塩酸を加えて塩化物となし、電解して金属マグネシウムを得る。
一方、ペリクレースは水分に逢うとブルース石に戻る。自然界ではこうした反応により生じたブルース石が、苦灰岩起源のスカルン中に産する。この時、珪酸分を含まない(か乏しい)鉱物と共存することが多いが、ブルース石はつねに最後の段階で生じており、このことは生成条件が中性からアルカリ性であったことを示している。

本鉱の名は記載者であるニューヨーク州の鉱物学者、アーチボルド・ブルースに因む。通常、層状または粒状の塊として産し、ごくまれに六角板状の結晶になる。典型的な色は無色〜淡緑〜淡青色、あるいはピンク色で、マンガンを含むと黄〜赤茶を帯びる。
平面的に配列した水酸基シートの間にマグネシウムイオンがはまり込んだ形のシンプルな構造ユニットを持ち、マグネシウムと両側の水酸基シートの間で電荷が相殺されるため、ユニット間の結合に電荷が寄与せず、分子間力(ファンデルワールス力)のみで繋がる。これはイオン結合や共有結合と比べ、かなり弱い相互作用であり、そのためブルース石はシート状に容易にはがれる(へき開)。
ちょうど雲母のようだが、雲母と違って弾性はなく、簡単に曲がるけれども元に戻らない。その感じは、へき開面の真珠光沢を含め、むしろ石膏に似ている。石膏との区別は希酸に容易に溶けることでつけられる。 

この標本は、地味ながら私のお気に入りの一品。ロシアはクリソタイル石綿の生産量で世界一の国だが(カザフスタン、中国、カナダがこれに次ぐ)、それあってか各地にアスベストという地名が点在している。本品はウラル地方のアスベスト産の銘柄品で、同地にはクリソタイル石綿の巨大な選鉱コンビナートが立ち並んでいるという。

ちなみに元素マグネシウムの名は、その鉱石である滑石が、ギリシャのマグネシア地方に産したことに由来する。

cf. テラミネラリア2 (雲母状のアスベスト産巨晶)

cf. No.330 蛇紋岩 補記2

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