333.直閃石&金雲母 Anthophyllite & Phlogopite (チェコ産) |
「ヘルマノフの球」(Hermanov ball)という妙に学究的な名前を持った石だ。
そしてその存在もやはり学究的な雰囲気を漂わせている。
かんらん岩とペグマタイトの境界部に出来た金雲母の層に入っているのだという。ならば熱変成物であるに違いない。つまり、もともとあった鉱物が、熱(や圧力)の影響を受けたり、あるいは起源を異にする鉱物との間で成分をやり取りしたりして、違った結晶構造、違った組成に変化したということだ。
それはいいが、この球は中心が金雲母で、中間が滑石で、外周が直閃石である。それがまた金雲母の母岩につつまれているのは、どういうわけなのか? なぜ内と外に同じ鉱物があって、中間部が違っているのか?
金雲母 K(Mg,Fe)3(AlSi3 O10)(OH,F)2
滑 石 Mg3(Si4O10)(OH)2
直閃石 (Mg,Fe)7(Si8O22)(OH)2 (各理想式)
の間に、変成3段活用、またはすでに消滅したかもしれない原鉱物からの4段活用、あるいは再び金雲母に還る変化が存在するのか?
例えば、かんらん岩が変成作用により蛇紋岩に変化し、それがさらに変化して(あるいは直接)金雲母片岩になる、あるいはその途中で滑石が生じ、その後に金雲母化するといったプロセスは実際に起こりうる変化だが、この球に対して適用出来るだろうか。
母岩の金雲母と球果部の直閃石はどちらが先に生じただろうか。球果中心の金雲母と直閃石とではどちらが先だろうか? 直閃石や滑石の珪酸部の珪素はある程度アルミに置換されているのであろうが、それにしてもなぜ内と外にアルミ(とカリウム)成分の多い金雲母があり、中間で薄いのか。後退変成作用が含まれるのか。
私は答を知らない。しかし、知らないことが、また楽しいと思える。
直閃石は角閃石族の一種である。このグループ種の多くが単斜晶系であるのに対し、直閃石は斜方晶系で、偏光顕微鏡下に直消光を示すのが和名の由来。学名は neo-Latin語の Anthophyllum に因み、その色がスパイスの一種クローブ(丁字)の褐色に似ているためだという(命名:E.シュバイツァー(1840))。産状は接触変成帯、接触交代鉱床等に限られる。石綿状のものはよい絶縁材料になるが、有害性が高いそうだ。
補記:滑石は、例えば、石英を主体とする変成岩中に、蛇紋岩のような珪酸分が少なくマグネシウムを多く含んだ岩石が入ってきた時に生じる。
補記2:一般に出回っている標本は、中間の滑石部分が少ないか入っていないものが多い。この部分がなんだかずっと分からなかったので、そして自分だけでは永遠に分かりそうにないので、先ごろ、鉱物科学研究所に問い合わせところ、X線粉末回折により、滑石とのお返事をいただいた。7年前に買った標本のアフターケアをきちんとして下さるのだから大変有難いことです。感謝。
補記3:自然界に産する斜方晶系の角閃石は空間群(Pnma)タイプのものだけが知られていた(直閃石もそのひとつ)。だが理論上は(Pnmn)タイプの斜方型も可能だった。このタイプの鉱物が発見されたのは1986年のことで、プロト鉄直閃石とプロト鉄末野閃石の2種が同時に現れた(原産地:栃木県鹿沼市)。そして2003年には直閃石の別の斜方型であるプロト直閃石が確認された(原産地:岡山県新見市)。このタイプの違いは肉眼でも偏光顕微鏡下でも識別不能だが、X線回折試験によって異なるパターンを示す。
なお、プロト鉄末野閃石は2013年に IMA
承認された名称で、それまではプロトマンガノ鉄直閃石と呼ばれていた。