367.藍方石ほか Hauyne & Sodalite & Lazurite(イタリア産) |
イタリアのベスビアス火山はかつて♪赤い火を噴くあの山で、火口から立ち上る噴煙を見に、人々がふにくりふにくら登った観光地だった。さらにその昔は、ふもとの町ポンペイを一夜にして飲んだ魔の山だった。
火山から噴出する溶岩は、カルシウムに富んだ軽石層と反応し、火口付近にさまざまな珍しい鉱物を形成している。
今は「アイフェルのサファイヤ」として有名なアウインも、原産地はこのベスビオ火山であった。
上の標本は、無色透明のアウイン。Geologisch Instituut Universiteit Van Amsterdam(アムステルダム大学地質学研究所)のラベル付きなので、鑑定は確かと思われる。
2つ目は淡青色のアウイン。ちょっと溶けたっぽい粒状で、砕けやすそうな集合体をなす。いかにも溶岩の噴出で出来ましたという風情である。出所はトレント大学Dr.G.ガラバリ氏のコレクション。少なくとも100年以上昔のアンティーク標本らしい。(鉱物標本としてはそんなに古いといえないが)
3つ目は、方ソーダ石。微粒ながら結晶面がはっきりしており、いったん冷え固まった溶岩と火山ガスとの反応で生成した雰囲気を見せている。
4つ目、一番下の標本は、ラズライト(ラピスラズリ)。Dana's New Mineralogy 8thには、ソーダライト、ノゼアン、アウインの産地としてベスビアス火山が記載されているが、ラピスラズリの項にはその名が見られない。そこで標本商さんに問い合わせてみたが、これもまたアムステルダム大学での分析により、ラズライトと鑑定された標本とのこと。後からインターネットで調べると、モンテ・ゾーマ火口でも産出することが分かった。
こうして並べてみると、方ソーダ石族の鉱物を肉眼で区別するのはかなり難しそうだと思わざるをえない。
分析には薄片を硝酸に浸すのが一法だという。
「方ソーダ石では NaCl(岩塩)の結晶、アウインで石膏の結晶、ノゼアンでは双方の結晶(塩化石灰を加える)を、それぞれ顕微鏡下で認める」と古い鉱物書にある。
硝酸に溶かした方ソーダ石中の塩素は、水泳プールの水質分析キットを使っても検出できるそうだ。
補記:ラピスラズリの産地はバダフシャンのサー・エ・サンが有名だが、今日ここから極めて美しい結晶質の方ソーダ石、アウイン、ラピスラズリ標本が市場に供給されている。そして従来ラピスラズリとされてきた標本は実質的にはすべて、硫化性のアウイン(アウインとラピスラズリの固溶体でアウイン寄り)であるという。cf. No.250
補記2:益富「原色岩石図鑑」にはイタリア、トスカニー、Cimeno山産の類似の岩石、藍方石ホノライト(藍方石響岩)が示されている。小さな暗青色の藍方石が散在する岩石で、ハリ長石、黝方石(ノゼアン)、白榴石、かすみ石、エジリンなどを含むもの。