368.ニッケル華 Annaberigite (ギリシャ産)

 

 

ニッケル華−ギリシャ、ローリオン産
(顕微鏡下で撮影)

 

アンナベルク石はドイツの古い鉱山町アンナベルク(現アンナベルク・ブーフホルツ)に因む石で、通称ニッケル華(Nickel Bloom) と呼ばれる。紅砒ニッケル鉱(No.89)などの風化によって生じる砒酸塩で、その鮮やかな緑色はニッケル鉱石の在り処を示す標識とされる。
コバルト華のコバルト成分がニッケルに置き換わった種に相当し、両者の間に連続的な固溶体が存在しうる。ただ、現在までのところ、コバルト華には10センチを超える結晶が知られているのに対し、ニッケル華は微小なものしか見つかっていない。その間になにか玄妙な敷居が横たわっているのかもしれない。コバルトとニッケルの割合が拮抗すると、それぞれに特徴的な色彩(赤紫色と緑色)が褪せ、灰色ないしオフホワイトに落ち着くという。これを相殺というのだろう。

定番産地ギリシャのローリオン(ラウリオン)産。
スペインのシエラ・カブレラに出たものはかつてカブレラ石(Cabrerite)の名で呼ばれた。ニッケルの一部がマグネシウムに置換されている。またイギリス、カークカドブライトシャーに出たものは一部がカルシウムに置換されており、発見者に因んでダジョン石 (Dudgeonite)と呼ばれた。

 

補記:ニッケル華はニッケル鉱石の風化物として普遍的に産する種だが、たいていの場合、淡緑色の微粉末状で産して、肉眼的な自形結晶を見せるものは少ない。今日、良品はほぼギリシャのローリオン産に限られる。古代に銀鉱などを掘った古い鉱山地帯で(cf.No.563)、19世紀末から1970年代にかけてフランスの鉱山会社がズリや鉱滓を含めて鉱石に利用して再稼働していた。その終末期(70年代初)に、ニッケル華の美晶標本が大量に市場に出回った。採集ポイントは互いに約6k離れて在るローリオンとカマリザの町のほぼ中間の砕石敷き道路付近で、「キロメートル3」の里程標があったことからその名で標識されることがある(現在はアスファルト舗装になり、里程標も撤去されているという)。
結晶サイズは1cmに達した。共産鉱物にゲルスドルフ鉱や紫色の蛍石、黄色球顆状のガスペ石、方解石などが報告されている。
ほぼ純粋なニッケル華から、20%程度マグネシウムに置換されたもの(カブレラ石)まで産した。90年代以降まとまった量の標本が市場に出ることは少ないが、2011年にはそれなりの量が採集されたようである。(2021.8.14)

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