387.パイロクスマンガン石 Pyroxmangite (日本産) |
日本でも美しい鉱物標本が採れる、あるいは宝石鉱物が採れる、という認識はインターネットを含めた情報網の充実により、近年かなり一般に受け入れられているのではないだろうか。また情報に接して鉱物採集を試みる方々もずい分増えているに違いないと思う。
田口鉱山のパイロクスマンガン石は、自己採集派として掘り当ててみたい石の代表格ではないだろうか。(まだ持ってないとしたら)
はるばる来たってヤマを踏み、ハンマーを振り、焦げ茶色のネオトス石を掻き落とし、美しいルビー色の結晶を浮かび上がらせたい…
実は私もいつか、と思っているのだけれど、まだ機会を得ない。ひとさまの山行談を羨望こめて拝聴し、おこぼれ頂戴…で今にいたる。
No.135でバラ輝石かパイロクスマンガン石かという話題を書いたとき、いつか自分で採った標本を載せたいと思ったのだけれど、どうもそういう展開にならなさそうなので、ここらでとりあえず標本のご紹介。
田口鉱山ではバラ輝石との共存はほとんどないそうなので、このテの石が見つかったら、ほぼパイマン(愛称)と思ってよい。
ああ、行きたいな。
…でもこれがバラ輝石だったら、こんなに行きたいと思うのか…とちょっとだけ自省。
「世界的に希産」と聞くとヨワいのだ。
追記:田口鉱山への行き方や採集可能鉱物については名古屋鉱物同好会編「東海鉱物採集ガイドブック」(1996)に詳しい。とはいえその後、地主さんが立入禁止を宣言したので、機会は随分遠ざかった。みながただ憧れているだけだったら、こういうことにはならないのだろうが、そういうわけにゃあいかないよねえ。
ついでに言えば、天然記念物の指定地域で採集するのはいけないが(法に触れる)、地域外では採集してよい、という鉱物愛好家の思考とか示唆は、モラルの問題として考えれば法の「精神」を踏みにじるものであろう。だけども、石は採って触ってナンボだし。
愛知県の三河地方は層状マンガン鉱床の多い土地で、田口鉱山はそのうちもっとも規模の大きな鉱床を掘った。1949年から鉱石を出鉱して、60年代前半まで稼働していた。多種類のマンガン鉱物を出したことで知られる。アラバンダ鉱、緑マンガン鉱、ハウスマン鉱、ヤコブス鉱、マンガンスピネル、キミマン鉱、ファイトクネヒト鉱、パイロファン鉱、菱マンガン鉱、テフロ石、アレガニー石、満ばんザクロ石、吉村石、バラ輝石、パイロクスマンガン鉱、云々…。
吉村石は1959年に岩手県野田玉川鉱山から記載された鉱物で、田口は二番目の産地となった。
休山した後に多量のズリ石が残され、愛好家にとって恰好の鉱物採集地だった。田口のパイロクスマンガン鉱は鉱物雑誌などに繰り返し取り上げられており、ネットオークションでは美品に大変な高値のつくことがある。