388.バリッシャー石 Variscite (ポーランド産) |
「これがバリッシャー石か?」というのが、初めてみた時の感想だった。
でも、やはりバリッシャー石であるらしい。2年前のミュンヘンショーあたりから出回り始めた標本で、銀星石と一緒に産するものだという。
バリッシャー石の組成式は Al(PO4)・2H2O、銀星石は
Al3(PO4)2(OH)3・5 H2O
で、どちらもアルミニウムの燐酸塩2次鉱物(水和物)だから、共産するのはまあいい。でも、このぬらぬらした真珠状というかゼラチンに似たつぶつぶは、私の先入観を、大げさにいえば打ち破るものだった。
バリッシャー石はユタ産の塊状標本が有名だが、最近人気のブラジル産濃緑色標本のように、丸まっちい毬状の形態があることも知っていた。ただ、この種の光沢とは無縁だと思い込んでいたのだ。
とはいえ、先入観が破られることにはある種の快感がある。意外性はセンス・オブ・ワンダーとユーモアと笑いの源であり、鉱物を楽しむ重要な要素といえまいか。
またこうも言えよう。ひとつの鉱物を知るにも、いろんな産状の標本に触れ、つねに懐を広くしておく心構えが求められる。
…あ。なんか。偉そう。
追記:この採石場はポーランド南東部にあり、カンブリア紀の砂岩(三葉虫の化石を含む)を切り出している。砂岩のき裂部に球顆状ないし放射形断面を示す銀星石/ヴァリッシャー石が生じており、星ではなく「太陽」と愛称されるそうだ。
球顆は明るい緑色〜茶色のものが多く、き裂を縁取る晶脈状の玉髄の上に生じている。慣例的に緑色のものをバリッシャー石、茶色のものを銀星石と区分しているのだが、実際には外観で両者を識別することは出来ないそうである。時に両者が累帯状に積層していることがある(一方が核になり周縁が他方に代わっている)。
この採石場の鉱物標本は長くポーランド国内でのみ知られていたが、21世紀に入ってちらほら国際市場でも姿を見ることがある(ネット取引のおかげか)。 (2022.1.1)