407.トルコ石 Turquoise (ペルシャ産) |
1670年頃に書かれた、J・シャルダンの「ペルシャ見聞記」(平凡社)に次の記述がある。
「ペルシャでもっとも豊かなのはトルコ石の鉱山である。ホラーサーン地方のニーシャープール、ヒルカニアとパルティアのあいだのカスピ海から4日行程のところにあるフィルーズ山の2カ所がそれで、このフィルーズというのは昔のペルシャ王の一人、この地方をうち従え町や城を建てた人である。プリニウスはこの山をコーカサス山とよんでいる。トルコ石の鉱山はこのフィルーズ王の治世下にも発見されて、鉱山も、またそこから採れる宝石も王の名を冠せられた。今日われわれは、その産地が往時のまぎれもないトルコ人の国であることからそれをトルコ石と呼ぶのだが、全オリエントでこの石はフィールーゼと呼ばれている。王以後にもトルコ石の新たな鉱山が見出されたが、そこの石はさほど美しくもなく、色も鮮やかでない。これは「旧トルコ石」といわれる従来のものと区別するために「新トルコ石」と呼ばれるが、われわれのいう新鉱石にあたる。この新しい石は時がたつと色があせる。旧鉱石から採れたものは王のために保存され、王はそのうちもっとも美しい石を手許において、残りは売るか別の宝と交換なさる。それに関わった宝石掘りや役人は可能な限りの横領着服をするから、そこらあたりから(各品の)トルコ石を購入する幸運に恵まれることもしばしばある。」
この石の名は、トルコを経由してヨーロッパに輸出されたことから名づけられた…というのが今日の定説だが(No.40参照)、昔はまた別の説があったわけだ。
それにしても、古い石は品質が良くて新しいのは劣る…というのは、ヒスイでもルビーでも、とかく宝石には昔からついてまわる評価らしい。
この標本は馴染みの店のフェアで入手した。いつになく古色を帯びた元のラベルがそのまま入っていて、お店の標本ラベルがなかった。思い当たって、「これほんとにペルシャ産なんですか?」と訊ねると、「そう書いてありますねぇ…」と先生真顔で仰った。いつもながら、こういうところが律儀です。
石は装身具に加工されたものらしく、磨かれ、隅に糸通しの孔が明けられている。