414.葉ろう石 Pyrophyllite (USA産)

 

 

pyrophyllite

パイロフィライト -USA、カリフォルニア産

 

白色で緻密な塊状、または結晶質の塊になって産する滑石を「凍石」 (steatiteステアタイト) と言うが、その蝋のような質感により、中国では古くから蝋石(ローセキ)とも俗称した。寿山石、晶化石、青田石などがこれにあたる。
日本では徳川末期に岡山県三石で葉ろう石が発見され、これを蝋石と呼んで石筆の原料にした。後には耐火炉材としても用いられるようになった。
降って現在、ろう石の名は、珪酸マグネシウムである滑石(凍石)、珪酸アルミニウムである葉ろう石を含め、さらに広義に、軟らかく脂粉ぽい触感のある緻密塊状鉱石一般にあてられている。
1)葉ろう石質蝋石(葉ろう石+石英+ダイアスポア+カオリン)
2)カオリン質蝋石(カオリナイトまたはデッカイト+石英+ダイアスポア+ベーム石+ハロイサイト)
3)絹雲母質蝋石(絹雲母+石英+カオリン)
等が含まれる。

葉ろう石は結晶質の片岩中に滑石や紅柱石、珪線石、天藍石を伴って産し、また熱水鉱脈中に雲母や石英と共に産する。熱水による軽度の変成を受けたものが多い。
結晶を火中に投じると水分が脱けて、曲がりながら葉のように薄く割けてゆく。学名パイロフィライト『「火」と「葉」の石』は、この観察に因む。珪線石、紅柱石、デュモルチェ石などのアルミノ珪酸塩鉱物と同様、酸に溶けない。耐火材としては800℃近くまで安定だそうだが、それは既に加熱脱水処理を施したものか?
葉ろう石は130℃以下、10キロバール以下の圧力環境で安定。ただ、生成環境はこれより高温でもよく、例えば300℃程度の温度域でアルミリッチな酸性火山岩体中の長石が変成して出来たりする。

保育社「鉱物・岩石」によると、マグマから揮発した酸性成分を取り入れた熱水は、マグマの熱に暖められて上昇する途中、周囲の岩石と反応して次第に中和されてゆく。その過程で溶液の酸性度の違いに応じた変質鉱物の帯状の分布が形成される。地下深部の高温環境では、鋼玉+紅柱石⇒ダイアスポア+葉ろう石⇒絹雲母⇒プロピライトの配列が生じ、また揮発成分としてフッ素や塩素、ホウ素が濃集する部分には、トパーズ、ズニ石、電気石、デュモルチ石等が出来るという。

恥かしながら、こういうお話は、私にはまだすんなりハラに入ってこない。木を見て森を知らない、というか、実地にヤマを踏んで、産状を大所から観察する経験が足りないと反省している。標本は小さくてもひとつの宇宙に違いない。だけれども、標本だけを見て産地の巨大な地相を再構成することは出来ない。それが出来るのは実際に現地でその石を拾ってきた時だけ、すなわち標本を契機に記憶が呼び起こされる時だけだ。

付記:Agalmatolite アガルマトライトは特に塊状の蝋石を指す名称(複数の鉱物種を含む)で、ギリシャ語の agalma(像)に由来する。この石が像の制作に用いられることによる。命名クラップロート(1798)。
参考:滑石、ろう石 ⇒No.210

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