413.デュモルチェ石 Dumortierite (USA産ほか) |
私が初めて知ったデュモルチ石は、草思社「鉱物採集フィールド・ガイド」(草下)の見開きに載ったカラー写真。栃木県百村(もむら)産の、あたかも青金石のような美しい青と白との塊で、「う〜ん凄いなあ、欲しいなあ…」というほかない石だった。
後で知ったが、ろう石を本鉱の微小片が染めたものにあたる。上の標本を手に入れて触ってみれば、なるほど柔らかさは掌に明らかだった。
同様に石英や珪石に本鉱の混じった石が世界各地で知られている。ブルー・アベンチュリン等の商業名で研磨細工に愛用されるが、アフガニスタン・カッチャン地方の産は、かつて(12世紀頃)青金石に見紛われたという。やっぱり、そんな傾向の石なのだ。(⇒付記)
マダガスカル島には繊維状〜柱状のデュモルチェ石がたくさん産する。中の標本は加藤昭博士製のラベル付で、「グラニュライト相に属する広域変成岩中の変成ペグマタイト中のもの。恐らく泥質岩起源。この種の産状のものを取り扱う時には、珪線石プラス硼素という目で見るとよいと言われている。少量の金緑石・苦土電気石・石英を伴っている。」と記されてある。
珪線石は紅柱石や藍晶石と同じ成分のアルミノ珪酸塩。わりと普遍的な変成鉱物で、ともに酸に侵されず、熱に溶けない。耐火材として優れた性質を持つため、特殊磁器の原料として各地で採掘されている。ここでデュモルチェ石は紅柱石の仮晶として産することがあるし、やはり優れた耐火材になるから、「珪線石プラス硼素」の指摘は、いい手応えだ。
マダガスカルは薔薇石英(ローズクオーツ)でも有名だが、その色は石英中に微小な本鉱を含むためという(⇒No.412)。 石英を青くしたり赤くしたり、自由自在である。
下の標本はカリフォルニア産のもの。短波紫外線を受けて青く蛍光する(参考)。結晶はよじれた繊維状で、いかにも変成作用によって出来ましたの顔。デュモルチェ石は、ふつう、青〜紫〜紅紫系の色を示し、チタンと鉄の含有比率がニュアンスの変化に関係しているという。ただし実際の発色機構はなかなか複雑らしい。スリランカ産の透明なものは、紅柱石と同様、3色性強しというが、まだ見たことない(赤褐色−褐色−黒色)。
付記:ある種のデュモルチェライト・クオーツは、「ラピス色のために、時に砂漠の意味をとって、デザート・ラピスと呼ばれる。」(宝石宝飾大事典 近山晶著)
追記:百村のろう石鉱山について、堀秀道「宮沢賢治はなぜ石が好きになったのか」(2006)にエッセイが載っている(「コレクション」)。径20M
ほどの小規模な露天掘りの鉱山で、「デュモルチェライトはローセキ中に青インクを落としたようにしてある」とある。1mmくらいの小さな天藍石
lazulite の結晶も採れるという。
ちなみに草下氏は何度か産地を訪れているようで、那須の山奥の百村の川原で真っ青な石を拾った人があり、ヒスイではないかと科博に持ち込んできたものを調べると石英質に浸透したデュモルチェ石だった、というエピソードを書き残している。上流にあるローセキ産地は、当時、那須蝋石鉱山といった。採掘場の奥隅の崖に、鮮やかな青い脈がふたすじほど走っていたという。日本の天藍石はここが初報告。