422.虎目石 Tiger's Eye (RSA産)

 

 

hawk's eye

ホークスアイ(青虎眼石) クロシドライト後の石英
 -RSA、ノーザン・ケイプ地方産
(面研磨)

tiger's eye

タイガー・アイ (タンブル)

 

タイガーアイ。和名を虎眼石(とらめいし)という。
虎がこんな眼をしているとは誰も思っていないだろうに、そう呼ばれる。黄色と黒褐色の細かい縞目が誰しもに虎を連想させる一方、うまくカボッション・カットするとシャトヤンシー(猫眼効果)が得られることから、猫眼石(クリソベリル・キャッツアイ)に対する虎眼なのだろう。
猫眼石が青林檎や蜂蜜の色した地にサーベルのような白銀を輝かせて、まさに猫の瞳めいた妖しい雰囲気を発するのに比べ、虎眼石は精々虎の毛並みがつややかに波打つに似ているばかりで、同じネコ科の石ながら、どうも神秘性というか神通力に欠ける気がする。
とはいえ、こちらは金運・勝運のお守りとして人気のアイテムだそうで、念珠に腕輪に阪神タイガース優勝記念(祈念)にと獅子奮迅の活躍ぶり、普及の度合いは猫眼石をはるかに上回っているようでもある。

この石は繊維状のリーベック閃石(クロシドライト=青石綿)の平行集合体を石英が含浸して固めたもので、石英類に準じた硬度を持っている。黄色〜黄褐色の色目が一般的だが、これはクロシドライトの成分である鉄分が褐鉄鉱(水酸化鉄)に変質して混じっていることに因る。本来の暗青色のものは欧米ではホークスアイ(鷹眼石)と呼ばれるが、日本ではむしろ青虎眼石(アオトラメ)の名で通っている。青虎眼石と虎眼石とが混在した石は混虎眼石(混トラ)という。虎眼石に加熱処理を施して、鉄分を赤鉄鉱に変化させれば赤褐色の赤虎眼石(アカトラメ)となる。
また酸処理で鉄分を溶出させて脱色すると、淡黄色〜淡灰色の、俗にいう抜き虎(ヌキトラ)と化す。猫眼石の代用にされているのは、彼我の値段と希少性とに相当の開きがあるためだ。さらにこのヌキトラを染色したものが染め虎(ソメトラ)で、赤、緑、紫、青、黒色など各色揃う。有機染料を用いているため褪色しやすいのが、虎の目に涙だとか。

近頃、もつれあったリーベック閃石を含んで鋼灰青色になった半透明の水晶標本が出回って高評を博しているが、ホークスアイやタイガーアイはその進化形といえるかもしれない。以上、トラメ七変化の巻。

参考:No.328 クリソタイル

補記:英名をそのまま読むと、タイガーズ・アイだが、日本では普通タイガー・アイという。クロシドライトの名はギリシャ語の krokus (羅紗のケバ)に由来し、繊維状であることを示す。クロシドライト(クロチド閃石)は俗称で、ふつう、鉄分に富んだ堆積岩に由来する層状鉄鉱鉱床中に産するものをいう。
ピーターサイトの名で売られている貴石は混虎眼石(混トラ)。

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