483.苦土電気石 Dravite (ミャンマー産)

 

 

Tourmaline var. Dravite ドラバイト 苦土電気石

ドラバイト -ミャンマー、モゴック産
(やや背光気味に撮影)

 

Dravite /苦土電気石は原産地Drava(ドラヴァ)川沿いのウンタードラウブルク(現スロヴェニアのドラヴォグラード)に因み、1883年、チェルマークによって命名された種である。鉄電気石と同じソーダ・トルマリン・グループに属し、鉄電気石の鉄分の過半をマグネシウムで置き換えた鉱物に相当する。ほかにクロム苦土電気石、灰電気石、リディコート電気石との間にも連続的に固溶体が形成される。マグネシウム質の大理石や片岩あるいは粘板岩を母岩に産することが多い。鉄分が少ないものは黄色〜橙色の短波蛍光を示すことがある。普通は濃い褐色だが熱処理によって色を薄めることが可能で、宝石にカットされたものには、そのテのものが含まれているそうだ。山梨県竹森に産する水晶に「ススキ入り」と呼ばれるのは、本鉱を含んだものである。

トルマリンの一般的な性質のひとつに偏光性がある。 私たちがふつうに目にする光(日光、ろうそく、電灯など)は、光子の振動面がランダムで、あらゆる向きに振動する波の均等な集合とみなすことが出来る。その光を薄く切ったトルマリンの板に通すと、ある方位に振動する光は完全に吸収され、それに垂直な方位に振動する光は通過する。特定の方位にだけ振動する光子の集合が偏光で、偏光を与える性質が偏光性である。 

偏光は、17世紀の終わり、ホイヘンスが方解石(アイスランドスパー:氷州石)の持つ二重屈折の性質を利用して発見したといわれている。 18世紀のはじめには、ビオとゼーベックが、「ある黄色電気石、すなわち屈折光が黄色味を帯びた光であるものが偏光光束の一光線を吸収あるいは阻止し、他の光線を透過するという注目すべき性質をもつことを発見した」。そして、「この発見によって電気石は後に偏光を使った多くの実験に使用されるようになった。 この目的のために、一般に細長い角柱の形で結晶化している電気石は縦に、すなわち角柱の軸(C軸)に平行に約30分の1インチの厚さの板に切断される。 しかしながら、ニコルが偏光光束の片方を方解石中において消失させる方法を発明して以来、電気石の欠点であるその色彩がニコルプリズムを使用すると全くなくなるので、光学実験における電気石の使用は完全にニコルのプリズム法に置き換えられた」(西洋事物起源)。

ニコルプリズムの発明は1828年だから、それまでの1世紀間が偏光板としてのトルマリンの最盛期だったことになるが、その後も鉱物の鑑定に2枚のトルマリン片を使った「電気石はさみ」が長い間、重宝されたようである。トルマリン板の間に鉱物の薄片を挟んで、光に透かしながら一方のトルマリンをゆっくり回転させると、鉱物の晶系によって異なった干渉模様が観察できる。櫻井欽一著 「鉱物の採集と見分け方」(1954)に、次のように紹介されている。
「上下に切った電気石の薄片を入れた覗きを取り付けたもの。この覗きをまわし真っ暗にしておいて、二つの間に方解石や水晶のような一軸性の鉱物の上下に直角に切った薄片をはさみ、透かして見ると、美しく彩られた同心円と、これを四つの区に分ける黒十字とが見られます。また斜方晶系、単斜晶系などの鉱物、すなわち二軸性の鉱物の上下に直角な薄片を入れてやりますと、今度は中心が二つに分かれた干渉圏が見られます。つまり、一軸性のものは一つ目小僧であり、二軸性のものは二つ目であります。なお、等軸晶系のものは目玉が出ず、常に真っ暗なので、他の晶系のものとすぐ区別できます。」

透明なトルマリンには2色性の顕著なものがあり、特に宝石質の緑色石、赤色石(リチア電気石)によく知られているが、苦土電気石では、褐色〜黄色に見える方向と、黄色〜無色に見える方向とがある。

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