522.燐灰ウラン鉱 Autunite (フランス産)

 

 

Autunite 燐灰ウラン鉱 オトゥーナイト

Autunite 燐灰ウラン鉱 オトゥーナイト

Autunite 燐灰ウラン鉱 オトゥーナイト

燐灰ウラン鉱 -フランス、オトゥーン産
(原産地標本)

 

天然のウランは、99.275%の 238ウランと 0.72%の 235ウラン、0.006%の 234ウラン(238ウランからの生成物)とで構成されている。このうち 235ウランは特殊な性質を持っていて、中性子を1ケ吸収すると原子核がきわめて不安定になり(それなら吸収しなければいいのに)、核分裂を起こす。原子核は重さの異なった二つの核に割れて、おおむね質量数140程度の核種と95程度の核種とになる(だいたい確率的に何が出来るか決まっている)。例えば235U + n → 95Y + 139I +2n のような反応が起こって、イットリウムやヨウ素などが作られる。このとき莫大なエネルギーとともに、平均2.5個の中性子が放出される(上記の反応では2ケ)。
放出された中性子が別の235ウラン原子に吸収されると、さらに核分裂が起こる。いいかえると、1回の核分裂あたり平均1個の中性子が別の原子核に捕獲される状態にあるとき、核分裂反応は 235ウランがある限り連鎖的に繰り返される。これが臨界と呼ばれる状態である。
捕獲される中性子数が平均1個を超えると、核分裂の頻度は相乗的に増加し、短時間に凄まじい量のエネルギーが解放されることになる。原子力発電は中性子の何割かを遮蔽することで反応速度を制御し、一定のペースで必要なだけのエネルギーを取り出すものであり、核爆弾は反応を制御せずに爆発的にエネルギーを取り出すものだ。

臨界状態は通常、天然のウランでは起こらない。まず反応を開始するための中性子源が得られないし、もし得られたとしても 235ウランの濃度が低いために反応が連鎖せず、自発的に終息するからである。放出された高エネルギー中性子が捕獲されやすいように、減速して熱中性子に変える仕組みも必要になるだろう。
アフリカのガボンには、17〜20億年ほど昔、60万年にわたって核分裂反応が継続したらしい天然原子炉の跡(オクロ鉱山)があるというから、全然ありえないというわけではないが、今のところ知られているのはこの地域の例だけで、それも大昔のことである。(補記3)

原子力燃料としてウランを用いるには、天然のウランから 235ウランを濃縮して取り出す必要がある。昔はかなり高濃度の濃縮ウランが製造されていたが、事情あって現在では低濃縮ウランが用いられている。235ウランを取り出したあとのウランは劣化ウランと呼ばれて(なにが劣化なんだか)、ほぼ238ウランの塊になっている。なにしろ容積が小さいわりに重たいので、航空機動翼のカウンターウェイトに使ったり、戦車撤甲用の劣化ウラン弾に加工される。ただ劣化ウラン弾は標的に当たると発火して、気化したウランを撒き散らすため、非常にありがたくない兵器である(放射線を出すし、化学的毒性もあるし、人体に入ると排出されにくい)。
天然ウラン中の235ウランは微量なので、燃料を取り出した後に残る劣化ウランの量は膨大である。上記のようにいくらか用途はあるものの、大半の劣化ウランは使い途もなく貯蔵され、今のところ増える一方で、頭の痛い問題となっている。

ちなみに低濃縮ウランを用いる軽水炉では、235ウランは燃料中の3%程度で、その他はほぼ238ウランであるが、238ウランは炉中の熱中性子を捕獲して、量は少ないが 239プルトニウムに変わる。239プルトニウムは235ウラン同様に連鎖的に核分裂を起こす物質で、原子炉が生み出す熱量の約30%は、事実上、こうして生成された 239プルトニウムが担っているという。
238ウランに高エネルギー中性子をあてると、より多くの 239プルトニウムが作り出される。この反応を積極的に利用して、劣化ウランから核燃料を作り出せるように設計するのが高速増殖炉である。ただ技術的に非常に難しい、というか事故が起こったときの危険度がきわめて高い要素が満載なので、日本では開発を進めることも容易でない。ここはやはりガボラに劣化ウランを食ってもらうしかあるまい。

上の標本は燐灰ウラン鉱。カルシウムを含む燐酸塩ウラニルで、閃ウラン鉱などの風化によって生じる。黄色〜黄緑色の鮮やかな色彩はウランの二次鉱物に特有のもので、画像はちょっと鮮やかすぎるように見えるが、日光の下で見る標本は実際蛍光を帯びているのがはっきり分かって、画像よりもっと鮮やかな緑と黄色をしている。美しい〜〜。
板状の結晶をなし、別名、ウラン雲母とも呼ばれる(燐銅ウラン鉱もウラン雲母)。成分に拠って Calcouranite とも呼ばれた。

燐灰ウラン鉱の学名オトゥーナイトは、原産地であるフランスのオトゥーン(オータン)に因んでいる。フランスはウラン資源に恵まれた国で、動力炉燃料の濃縮や再処理等の原子力産業で世界有数の勢力を誇っている。ただ国内のウラン鉱山は現在ほとんど操業停止の状態にあるらしい。
なお本鉱の記載は1852年で (by H.J.Brooke & W.H.Miller) 、その頃はまだ放射線の存在は知られていなかった。 

補記:核分裂によって生じた核種はたいてい放射性である。
補記2:フランスのウラン資源は1946年から1987年頃まで盛んに採掘され、30ほどの鉱山が稼行していたが、その頃から産量が落ちて相次いで閉山していった。最後まで残ったLodeveは1997年に、ベルナルダンは2001年に閉山した。ほとんどが浅熱水鉱床である。

補記3:ガボンではかつて天然原子炉だったと考えられる土地が16ケ所見つかっている(1972年発見)。ウラン235に富んだ地下鉱床に地下水が流れ込んで核分裂の連鎖反応が始まり、発生した熱で水が干上がると再び水が充填されるまで反応が止まった。こうして数十万年の間、断続的に反応を繰り返し、ウラン235の濃度が下がって連鎖が維持できなくなると反応が終息したと考えられている。当時はウラン235の存在率が3.1%あったために核分裂が可能であったが、自然放射性壊変が進んだ現在では存在比率は0・7%に下がっている。従ってこのような天然原子炉はもはや成立しないとみられている。

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