521.天河石 Amazonite (エチオピア産)

 

 

Amazonite アマゾナイト

アマゾナイト(微斜長石) −エチオピア、シダモ、コンゾ産

 

放射性核種の崩壊は統計確率的に起こる現象であり、その崩壊数は指数関数法則に従う。言い換えれば、ある特定の原子がいつ崩壊するかは予言できないが、ある時間が経過する間に何個の原子が崩壊するかは(ほぼ)確実に計算することが出来るのだ。

もとあった原子の半数が崩壊するまでに経過する時間を半減期といい、核種によって定まっている。
例えば 238ウランの半減期は44.68億年である。仮に44.68億年前(ほぼ地球が出来た頃)に100ケの238ウラン原子で出来た石があったとすると、今ではその数は50ケに減っている。崩壊した原子はウラン系列の元素を順に経過して最終的に鉛になるが(⇒No.520)、これら系列娘核種の半減期は 238ウランと比べていずれもかなり短いため、議論を省いて結論だけいうと、99%までがすでに(ほぼ50ケの) 206鉛に変化している計算になる。

もしこの 238ウランが閃ウラン鉱(二酸化ウラン)の形で与えられていたとすると、そして崩壊した原子が石の中にとどまっているとすると、ウラン鉱の純度は半分に落ちて、その代わりに過酸化鉛が入っているはずだ(もっとも結晶構造は破壊されてメタミクト化しているに違いない)。
もし単体の238 ウランとして存在していたならば、崩壊の結果、自然鉛が出来るはずである。しかし、自然鉛は非常に珍しいということだから、おそらくもとのウランも単体では存在しないのだろう、あるいは、途中で揮発してしまうか、化学反応を起こしてしまうのだろう、というのがNo.520に書いた推論である。(補記参照)

マグマから火成岩が形成されるとき、重元素であるウランは後期〜晩期に固化する領域に濃集されやすい。例えばペグマタイト中には比較的高濃度のウランが(相対的には微量だが)含まれていることが多く、またウラン鉱物自体が晶出していることもある。こうした岩石中にはウランから変化した鉛もまた含まれているだろう。そこで、ある岩石や地層中にウランと鉛が存在していて、なんらかの方法で初期に存在していた鉛の量(ウランの量)が推測できるとすれば、両者の比率によって、その岩石なり地層なりが形成された年代を推算することが可能になる。

鉛の安定同位体には 204鉛、 206鉛、207鉛 、208鉛の4核種があり、このうち204 鉛以外の3つは、それぞれウラン系列、アクチニウム系列、トリウム系列から変化して出来たものと、もとから存在したものとがありうる。
206Pb/238U、 207Pb/235U、あるいは 208Pb/232Th の割合を調べることで、その岩石の形成された年代を推算することが出来る。この方法をウラン−鉛法といって、数千万年〜数億年単位の古い岩石年齢を調べるのに適している。
あるいは鉛の同位体の組成比をもとに年代を推算することも出来る。
天然鉛同位体の存在比は現在、204鉛 1.4%、 206鉛 24.1%、 207鉛 22.1%、208鉛 52.4% とされているが、実際には土地(岩石)によって比率が異なっている。そこでこの現象を利用して考古資料の出土地の年代同定が行われている。たとえば 206鉛/204鉛の比率は現在17.21だが、1億年前には17.26、3億年前では13.41だったとされている。

上の標本は微斜長石の緑色になったバリエーションで、天河石(アマゾナイト)と呼ばれるもの。緑色はかつて銅による発色と考えられていたが、今は鉛イオンによるカラーセンター効果とみられている。(補記2)
天河石中の鉛はもともと存在していたものもあるだろうが(204鉛など)、晶出時に取り込まれたウランが鉛に変化したものも相当量あるだろう。
微斜長石は非常に長い時間をかけて形成される(正長石として晶出したものが変化するなど)岩石なので、その間には鉛の量が増え、もともと無色だった微斜長石が緑色の天河石に変わっていったということもありそうだ。
ちなみにパーサイト構造が発達している天河石の場合、緑色に着色しているのはふつうカリ長石の部分である(⇒No.492)。
天河石中のウランと鉛の比率や、鉛同位体の比率を測定してみると、いろいろ面白いことが見えてくるかもしれない。

補記:ウランは通常4価または6価の状態で天然に産する。ちなみに資源として有効なウラン鉱床の大部分は堆積岩型(地下水型)で、ペグマタイト中のウランは資源としては役不足。
補記2:ブラジル、バヒア州産のものに鉛成分をほとんど含まず、0.55%程度の酸化クロムが検出されるものがある。アマゾナイトにしては緑色味の強い特徴的な色彩を持つ。 cf.No.620 (ブラジル産、USA産)

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