538.アンモニオ白榴石 Ammonioleucite (日本産)

 

 

アンモニオ白榴石 Ammonioleucite

アンモニオ白榴石 -群馬県藤岡市鈩沢産
(原産地標本 堀秀道氏採集品) 撮影:ニコちゃん

 

アンモニオ白榴石は、白榴石のカリウム成分をアンモニウム基で置き換えたものにあたる、とモノの本にある。白榴石のように高温環境で生成したのでなく、もとは方沸石として生じたものがアンモニウムイオンに富む熱水と反応して低温環境で出来たらしい。少なくとも、原産地の鈩沢(たたらざわ)で発見された標本はそう考えられており、結晶の表面はアンモニオ白榴石でも内部に方沸石が残存しているものがある。 
ということは、本鉱はむしろ方沸石のナトリウム成分をアンモニウム基で置き換えた(かつ水分を失った)ものにあたるといった方が産状に近いわけである。
組成式を見ると、方沸石NaAlSi2O6・H2Oは沸石水を含む一種の水和物であるのに対し、白榴石KAlSi2O6は水分子を含んでいない。そこで前者の方が低い温度で生成しただろうということは一般的な傾向として言えるのだが、アンモニオ白榴石の組成式も (NH4,K)AlSi2O6 で水分子を含まないから、やはり方沸石より高い温度環境で生成したと考えてはいけないだろうか?
一方、水和物中のある成分が熱水に浸された環境で別の成分に置換されるとき、水分子の排除がはたして低温環境でも可能なのか、不思議な気がする。が、実際にそういう、沸石水を許容しない、結晶構造の変化が起こったのだろう。たいへん興味深い。
ちなみに、沸石水を含む鉱物で「ワイラケ沸石Ca(AlSi2O6)2・2H2O、濁沸石Ca(AlSi2O6)2・4H2O、菱沸石Ca(AlSi2O6)2・6H2O は、この順で生成温度が下がってゆくので、同じ産地に見られる時は環境の変化を示す指標と考えることが出来る」という←No.287。 これは低温で生成する沸石ほど水分を排除して結晶化することが難しくなるという例だ。普通はこうなるものであろう。

本鉱は堀博士が発見した新鉱物として夙に有名である。鈩沢の土砂採石場にドーソン石が発見されたと聞いて現地を訪れた博士は、近くに別の採石場があることを知って調査を行なった。そこで方沸石に似た24面体の白濁した樹脂光沢の結晶を発見したのだが、「樹脂光沢の方沸石は見たことがない」と疑問を持った。X線粉末データを取ったところ、むしろ白榴石に近い構造を持っていることが分かった。とはいえ白榴石は塩基性岩に産する鉱物なので産状が異なっている。そこで公的機関に依って精密な分析を行なった結果、めでたく新鉱物となったのだった。
私がこの標本を購ったのは、95%くらいまでこのエピソードに購買意欲をそそられたからである。もちろん博士のお店のお世話になった。

補記:鉱物同志会誌「水晶」の堀会長追悼号に、ドーソン石の発見者、丸橋剛氏の寄稿があり、本鉱発見の経緯についてもう少し詳しい記述がある。ドーソン石は鈩沢の藤栄建設(株)採石場(通称第一採石場)で発見されたが、その南東にある(有)富岡建材の採石場(通称第二採石場)で 1983年1月15日に多量の方沸石の産出が確認された。前者の地質は砂岩層だが、後者は第三系の堆積岩が三波川帯変成岩へ衝上している破砕帯を含んでいた。針ニッケル鉱、ベス鉱、含ニッケル苦灰石(緑色)、アルモヒドロカルサイト(桃色)など種々の珍しい石が出た。
氏は 5月3日に現場を再訪し、これより少し掘り下げた作業レベルで、結晶片岩の空隙に白濁した方沸石様鉱物を見つけた。中に陶器のような樹脂光沢のものもあったという。ほどなく堀博士から「白濁した方沸石を見ていませんか?」と連絡が入り、6月に筑波大の長島博士と共に産地を案内した。堀博士らは「白濁方沸石」を沢山採集すると、すぐに帰京された。この時すでに何かを感じ取っておられたのだろうと、氏の回想である。

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