538.アンモニオ白榴石 Ammonioleucite (日本産) |
本鉱は堀博士が発見した新鉱物として夙に有名である。鈩沢の土砂採石場にドーソン石が発見されたと聞いて現地を訪れた博士は、近くに別の採石場があることを知って調査を行なった。そこで方沸石に似た24面体の白濁した樹脂光沢の結晶を発見したのだが、「樹脂光沢の方沸石は見たことがない」と疑問を持った。X線粉末データを取ったところ、むしろ白榴石に近い構造を持っていることが分かった。とはいえ白榴石は塩基性岩に産する鉱物なので産状が異なっている。そこで公的機関に依って精密な分析を行なった結果、めでたく新鉱物となったのだった。
私がこの標本を購ったのは、95%くらいまでこのエピソードに購買意欲をそそられたからである。もちろん博士のお店のお世話になった。
補記:鉱物同志会誌「水晶」の堀会長追悼号に、ドーソン石の発見者、丸橋剛氏の寄稿があり、本鉱発見の経緯についてもう少し詳しい記述がある。ドーソン石は鈩沢の藤栄建設(株)採石場(通称第一採石場)で発見されたが、その南東にある(有)富岡建材の採石場(通称第二採石場)で
1983年1月15日に多量の方沸石の産出が確認された。前者の地質は砂岩層だが、後者は第三系の堆積岩が三波川帯変成岩へ衝上している破砕帯を含んでいた。針ニッケル鉱、ベス鉱、含ニッケル苦灰石(緑色)、アルモヒドロカルサイト(桃色)など種々の珍しい石が出た。
氏は 5月3日に現場を再訪し、これより少し掘り下げた作業レベルで、結晶片岩の空隙に白濁した方沸石様鉱物を見つけた。中に陶器のような樹脂光沢のものもあったという。ほどなく堀博士から「白濁した方沸石を見ていませんか?」と連絡が入り、6月に筑波大の長島博士と共に産地を案内した。堀博士らは「白濁方沸石」を沢山採集すると、すぐに帰京された。この時すでに何かを感じ取っておられたのだろうと、氏の回想である。