537.白榴石  Leucite   (イタリア産)

 

 

Leucite 白榴石

リューサイト−イタリア、ローマ近郊、ヴィッコ湖産

Leucite 白榴石

白榴石 −ドイツ、アイフェル産

 

白榴石はざくろ石(ガーネット)に似て、かつ色が白いことからその名がある。「楽しい鉱物図鑑」やDana 8th では準長石(かすみ石グループ)に分類されているが、その後刊行された「岩石と宝石の大図鑑」には「最近まで準長石とされていたが、現在ではゼオライト(沸石)の一員に位置づけられている」とあり、分類に変化のあったことが分かる。成分的にはカリ長石KAlSi3O8からSiO2が抜けたものが白榴石/リューサイト KAlSi2O6で、方沸石NaAlSi2O6・H2Oと構造が似ている。そのため沸石グループに分類されたようだが、イオン交換能や沸石水の含有といった沸石特有の性質は持っていない。
温度環境によって結晶構造の異なるハイタイプとロータイプとがあるが、標本として区別されているものはみたことがない。一般に方沸石は低温で生成するが、白榴石は比較的高温で生成するといわれ、低温では不安定で粘土などに置換されやすいようだ。新鮮なものは透明感がありガラス光沢を持つが(下のドイツ産の画像)、No.536で書いたように市場で見る標本はたいてい完全に白濁していて光沢に乏しい。風化が早く、脆い(絹雲母やカオリン鉱物となる)。標本の中には樹脂含浸した気配のあるものがみられる(画像の標本もそう)。白榴石は低温環境で擬白榴石と呼ばれるものに変化していることがあるが、これは、かすみ石、カリ長石(正長石)、方沸石などが混在する物質である。

白榴石の標本はイタリアが大卸しみたいな存在で、ベスビアス火山を構成する火山岩はたいてい白榴石を含んでいる。イタリアは準長石を含む岩石、特に(アルカリ)火山岩の産地として有名である。この国ではそのまま天然肥料として用いられるそうだ。

ドイツの文学者ゲーテは、1786年、ワイマールでの政務を放り出し、逃げるようにしてイタリアを目指した。彼はその旅をリフレッシュ休暇の感覚で大いに楽しみ、ボローニャでは重晶石を採集して「また石を抱え込んじゃった」とか言っているが、ローマに入る直前の山越えの様子を次のように記している。
「橋を渡るとすぐ火山質の地形となる。この地帯の表面は実際の熔岩か、或は以前からあった岩石が焼けて熔けたために変質したものである。私たちは一つの山を登って行ったのだが、その山は灰色の熔岩とでも呼びたい。それは多くの白色の、柘榴石のような格好をした結晶体を含んでいる。山からチッタ・カステラナへ下りてゆく大道は、やはりこの石からできていて、非常に気持ちよく滑らかに踏み固められている。(「イタリア紀行」 相良守峯訳 岩波文庫)
この白い結晶が白榴石で、古くから知られていたものらしい。少なくとも1773年には白ざくろ石の名で記録がある。しかしゲーテがこれをざくろ石だと考えなかったことはこの文章から明らかであろう。鉱物学者としての面目躍如だ。ちなみにウェルナーがギリシャ語の「白い」に因んで新鉱物の学名を提案したのは1791年であった。石英とは共存しないといわれる。

cf. No.886 ベスブ石

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