541.ペタル石  Petalite (アフガニスタン産ほか)

 

 

Petalite ペタル石

ペタライト -アフガニスタン、クナール、カムデシュ産

ペタル石 Petalite

淡い茶色のペタル石結晶 −ミャンマー、モゴック産

Petalite ペタル石

ペタル石のルース ブラジル産 2.55ct

 

ブライトハウプトがエルバ島で見つけた2つの新鉱物はギリシャ神話の双子にあやかってポルックス石、カストール石と名づけられた。
No.540で述べたとおり、ポルックス石はセシウムを含む鉱物である。セシウムは1860年にドイツの科学者キルヒホッフとブンゼンとによって鉱泉の中から発見された。濃縮した鉱泉水の炎色反応の中に、すでに知られていたアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)化合物のものではない2本の輝線スペクトルが観察されたことがきっかけで、分光分析で発見された最初の元素となった。その名は青く見える光から、ラテン語の青を意味するカエジウスに因んだ。ポルックス石がセシウムの鉱物であると分かったのは数年後の1864年で、鉱物学者たち大いに盛り上がった。

一方のカストール石はリチウムを含む鉱物だが、後に成分が再検討されて1800年にスウェーデンで発見されていたペタル石と同じものであると分かり、その名が取り下げられた。やはりカストールは死すべき運命の人の子であったらしい。とはいえ仲のよい双子のこと、その名は今でもポルックスと並んで記憶されている。
本邦の古い本には「単斜晶系に属するも結晶は稀、多くは塊状をなし、塊状のものをカストール石 Castorite という。また(001)に完全なへき開があり、葉片状を呈するものを葉長石(ペタル石)という」などと記されている。
ペタル石とは、結晶が葉のようにへき開するため、ギリシャ語の「葉 (Petallon)」に因んで名づけられたもの。鉱物学的に長石の仲間とはみなされないが、木下亀城の事典に、「本鉱物は加熱した場合、1000度くらいまでは収縮し、これにアルミニウムを加えると膨張率はさらに小さくなる。一方、酸化珪素を加えると大きくなるので、Li2O-Al2O3-SiO2の混合比によって膨張率を調節できる。そのため陶磁器にリチウムを加えるが、これには粘土に葉長石の粉砕したものを混ぜる。またリチウムの原鉱としても利用される。」とあって、陶磁器の原料となる長石や粘土類と同様に用いられ、同列視されていたことが伺われる。

スウェーデンの科学者アルベゾンは、1817年にペタル石の成分分析を行い未知のアルカリ金属を含むことを認めた。組成の化学分析値の異常によって未知の元素であることが分かり、既知のアルカリ金属が動植物界に広く分布するのに対して、この元素は鉱物界で初めて見出されたことから、ギリシャ語の(リチオン Lithion:石からの意)に拠ってリチウムの名を与えた。リチウムは火成岩や鉱泉の成分として地表に広く分布する。ただ地球上での存在量はナトリウムの500分の1にすぎない。

ペタル石は塊状のものが大量に産するが、結晶標本はそんなに出回っていなかったと思う。ところが近年になってアフガニスタンやミャンマーから良晶が供給され始めた。背景には、鉱物標本の需要が世界的に拡大し価格が高騰している事情があるように思われる。
ペタル石は静かに熱すると青色の燐光を発するというが、例によって試していない。

cf. No.829 (ペタル石発見の経緯など)

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