562.ボタラック石 Botallackite  (イギリス産)

 

 

Botallackite ボタラック石

Botallackite ボタラック石

ボタラック石−イギリス、コーンワル、レバント産

 

コーンワル地方で採鉱が始まったのはいつのことか、はっきりしない。一説にはBC2000-3000年頃までにフェニキア人やほかの民族が、河川沿いにスズの漂砂鉱床を発見して採掘を行っていたとされている。これは古代エジプトの墳墓から発見された青銅製品をもとにした考証で、古代に知られていたスズの産地、マレー半島、中国、コーンワル、ザクセン、ボヘミアといった地域とエジプトとの交流を消去法的に推測して産地を絞った結果であり、正しいかどうかわからない。もし中東エリアにスズ産地が発見されればすぐにひっくり返る。
しかしローマのシーザーがイギリスに侵攻した時代、同地のスズがイタリアに送られたことはかなり確からしい。文献的には1201年のジョン王によるスズ憲章が古い。スズの需要は古代には青銅器の需要と連動し、近世以降はブリキの需要と連動した。コンワールでも然り。
またこの地方はスズのほか銅産も豊かだった。19C半頃はグウェナップ、キャンボルン、レッドルース、セント・ジャストなど各地で数多くの鉱山が稼動されていたが、有名なドルコース、ユナイテッド、ボタラックといった鉱山はいずれも銅を掘った。ヨーロッパの産銅の3分の1はコーンワルとデボンが占め、またその後の半世紀近くコーンワルは世界のスズ産の中心地であった。(cf. 錫の話

ボタラック海崖で採掘が始まったのはおそらく中世の頃だろうが、文献としては1754年の文書が最古という。19世紀中頃の不況でスズ市場の新規開拓が急務だったとき、シェフィールドのある業者は純スズ製の食器セットを作って大いに宣伝した。スズ食器は美しく清潔で、料理の味をよくし、そして非常に長持ちすると。スズ食器は実際大いに流行った。ボタラック鉱山は18〜19世紀の間、大量のスズ、銅、砒素を産し、市場を担った。
1895年に海水が坑道に侵入する事故があり、折からの金属価格の低迷もあって公けの鉱山活動は中断された。(その後、20世紀に一時再開されたが、再び隆盛を迎えることはなかった)

ボタラック石は銅の塩化水酸塩で、成分はアタカマ石、斜アタカマ石、(パラアタカマ石)と同じ。この3者(+1)は同質異像の関係にある。1865年にチャーチ博士が記載したのが最初で、これはコーンワルの標本商リチャード・トーリンが博士に提供した標本によるものだった。トーリンは産地をボタラック鉱山としたが、実際にはホイール・クックで採られたといわれている。ここは後にボタラックに吸収された。鉱山のズリで採集されるそうだが、Dana's 8th には、古代のなんらかの青銅品が風化して生じたものだとある。

補記:ボタラック石は、チャーチ博士の報告後も、一般にはアタカマ石と同一物と考えられていた。しかしX線や光学上のデータは別種であることを示した。

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