581.青針銅鉱  Cyanotrichite (USA産)

 

 

Cyanotrichite 青針銅鉱 シアノトリカイト

シアノトリカイト(シアン色、深緑色はブロシャン銅鉱) 
-USA、AZ、ココニノ、グランドビュー鉱山産

 

Cyanotrichite シアノトリカイト。一見シアン化合物を想わせる名前だが、cyanoはギリシャ語で「藍色の」(または明るい青色の)を意味し、シアンは含まれていない。trich は毛髪のことで、つまり青色をした毛髪状の鉱物というわけ。柔らかそうなイメージである。 
これが和名では青針銅鉱となって、いかにも鉱物らしい硬質な雰囲気をかもし出す。ごく一部の愛好家の間では「アヲハリ」と通称され、崇め奉られる(笑)。
かく楽屋落ちな消息をわざわざ言うのは、日本人には青色系のハリハリした鉱物を殊のほか珍重する向きが実は随分多いように吾人には感じられるからである。本鉱はなんといっても青が素晴らしく、毛髪〜タフタ状、あるいは針状の細い細い結晶が、繊細な色調をさらに繊細で貴重なものに感ぜしめる。微小な結晶に時々見られる、球状に放散したハリ姿(晴れ姿)はまさしく神品で、ごくごく一部の人に涙とヨダレを流させる。本鉱を青毛銅鉱でなく、青針銅鉱と訳したのは、まさにそのような感性が作用した結果であろうと愚考する次第だ。ふぅ。(※青毛鉱という和名もあるが、普及してない。また Velvet Copper Ore ベルベット銅鉱の名もあった)

銅鉱床の酸化帯に見出される二次鉱物で、銅とアルミの硫酸、炭酸、水酸(水和)塩である。
実は分類にややあいまいなところがあり、青針銅鉱の原産地標本は水酸硫酸塩として定義されている一方、硫酸イオンより炭酸イオンが卓越したものが多く存在し、Carbonate-Cyanotrichite 炭酸青針銅鉱 と呼んで別種として扱われる。しかし硫酸イオンをまったく含まない炭酸塩種があるのかどうかはよく分かっていない。標本として出回っているものは、普通、炭酸青針銅鉱とされている(いちいち分析しているとはとても信じられないが)。
いずれにしてもわりと珍しい種で、 図鑑を開くと、代表的な産地にギリシャのラウリオン、フランスのカップ・ガロンヌ(緑鉛鉱などで有名)、スコットランドのリードヒル、イギリスのコーンワル、南アのナマクアランド、米国はアリゾナのグランビュー鉱山、カッパークイーン鉱山、ユタ州アメリカンイーグル鉱山、ネバダのマジューバヒル鉱山などが挙げられている。 いずれも希産二次鉱物の有名産地である。日本では静岡県下田の河津鉱山産があるが、鉱物採集の旅東海編(1977)に「日本ではここでしか見つかっていません)とある。

余談だが、画像にあるグランドビュー産の本鉱は、もともと Lettsomite と呼ばれていた。これは1850年にパーシーがイギリスの鉱物学者レッソムに献げた鉱物名だが、1839年に記載されていたシアノトリカイトと同成分であると判明したため、統合されてしまったものである。レッソムは「大英帝国の鉱物学手引き」という本を著した大家だった。アーメン。

cf.ヨアネウム5

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