585.黄鉄鉱&武石&褐鉄鉱 Buseki-Limonite (USA産)

 

 

Pyrite 黄鉄鉱

パイライト(黄鉄鉱) 表面は錆びて、錆色と干渉色とを生じている
 -USA、コロラド州産

Lepidochrosite ps@ pyrite 鱗鉄鉱

黄鉄鉱後の鱗鉄鉱(仮晶) −USA、コロラド州産

Goethite ps@ marcasite 針鉄鉱

白鉄鉱後の針鉄鉱(仮晶) -USA、ウィスコンシン州コロンビア郡産

 

一般に褐鉄鉱は岩石や土壌中の鉄分が風化されて生じることが多い。そうした(いわば明確な形をとる以前の)褐鉄鉱は、もとの鉱物の形を留めたまま成分を置き換えたり、針鉄鉱として識別される形に再結晶したり、ほかの岩石や土壌中の有機物質(草木の根や貝殻)を核として集積・凝結したり、土壌中に分散して着色成分として混在したり、実にさまざまな形態で出現する。鉱染といって金属鉱脈の埋もれた山が風化によって独特の色に染まっていることがあるが、褐鉄鉱が鉱染の主成分となっていることも少なくない。孔雀石は銅のカンテラ、ビスマスは銀の帽子などというが、褐鉄鉱もまたさまざまな金属鉱床へのパイロットランプとみなされる。

日本で武石(ぶせき)と呼ばれる石は、黄鉄鉱がその形を留めたまま褐鉄鉱に変化したものである。
草下英明の「鉱物採集フィールドガイド」に、長野県の小県郡武石村(たけしむら)という土地にある武石山は全体が凝灰岩で出来ており、その石のカケラの中に濃褐色の四角い六面体や、角のとれた十二面体の結晶が入っている、もとは黄鉄鉱だったのが硫黄分が抜けて水酸化鉄の針鉄鉱に変化したものだ、と紹介されている。地元の人たちが自分の村の名をとって武石と呼んでいたのが広く行きわたり、今では専門家の間にも通用するようになったとのことで、サイコロ形の石の写真が武石として示されている。
一方、専門家の中にはより細かい区分を行う向きもあり、五角十二面体ものを武石、立方体のものを枡石(ますいし)、内部が風化されずに黄鉄鉱が残っているものを金武石という、としている。しかしその分類に従うなら、内部が新鮮な五角十二面体のものは金武石でなく、金枡石と呼ぶべきではないだろうか?
ちなみに10年ほど前に地元のペンションに泊まったとき、宿の主人が、子供ら(小学生)がこの石を拾ってきて遊んでいると言っていた。武石村は2006年に上田市などと合併し、上田市と呼ばれるようになったが、武石の名はこの先も残っていくことだろう。

黄鉄鉱は普遍的な鉱物なので、当然その風化物にしても武石村の専売でなく、世界各地に産する。それぞれの地元でそれぞれに名前がつけられている(補記)。ここに挙げた標本はアメリカ産、ラベルには鱗鉄鉱とあるが、実質は褐鉄鉱と呼ぶべきものと思う。

下の標本は黄鉄鉱と同質異像の鉱物、白鉄鉱が、結晶形を残したまま褐鉄鉱(針鉄鉱)に変化したものである。これをなんと呼ぶべきか、寡聞にしてまだ知らない。

補記:武石村では「箱石」とも呼んだ。2、3個連なったものは「猫武石」。上田地方で「切目石」、飛騨で「さいせき」、和田峠に「出角石」、安芸山形郡平見谷に「四角石」、信濃中山村焼沢に「姥金石」、肥後に「山姥の釘打石」、播磨に「桝石」、「おさいじょろう」、山口に「山神のぜに」、熱海に「じゃが」等々。

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