594.クリード石  Creedite (USA産ほか)

 

 

Creedite クリード石

クリード石(母岩は流紋岩・蛍石脈に伴う) −USA、ネバダ州ナイ郡ホール鉱山産

Creedite クリード石

クリード石 −メキシコ、デュランゴ、ナビダード鉱山産

Creedite クリード石

Creedite クリード石

中国、貴州省、キンロン(晴隆県)産

 

私が初めて手にとったクリード石は上の画像のネバダ州産の標本で、淡いラベンダー色の結晶を見て最初は紫水晶かな、と思った。実際ユタ、ネバダ州のあたりは流紋岩の晶洞を覆う淡紫色の紫水晶の標本が出ている。
クリード石というラベルにあれっと思ったが、結晶をよく見ると柱の頭部が片側に大きく傾いていた。この形は水晶でも例えばスイス産の無色のものによくあるのだが、紫水晶では珍しい。特徴的な形に加えて、結晶のテリが水晶よりも随分控えめな感じがして、なるほど別種の鉱物らしいと思わせた。当時私はクリード石を知らなかったが、もしかやっぱり紫水晶だったということになっても、この清楚さゆえに許そうと思った。

クリード石はカルシウム、アルミニウムの硫酸ハロゲン化(水酸)水和物である。蛍石や重晶石を産する類の熱水鉱床や金属鉱床の、激しく風化された上部酸化帯に産する。 1916年にコロラド州のクリード地区にある蛍石・重晶石鉱山で発見されたため、その名前がある。単斜晶系に属し、柱状結晶の先端部が大きく斜めに切れた形をしている。ぱっと見ると柱の部分が先端に向かってやや太くなっているような気がするのだが、特徴的な形状がもたらす視覚効果(錯覚)である。
無色(白色)〜オレンジ色〜ラベンダー〜紫色を呈するが、紫色はわりと珍しく、モノの本によると、メキシコのサンタ・ユーラリアから非常に美しい標本が出たそうだ。
メキシコ産としては現在、ナビダード鉱山のオレンジ色標本がよく出回っており、イガイガの結晶が「ヤマアラシ」風に放射集合しているものが多い。2番目の画像がそれ。オレンジ色は鉄分を含むためとみられる。

ナビダードは蛍石を掘った鉱山だったが主鉱体はほぼ尽きており、工業資源としての採掘は採算が合わないため暫く放置されていた。しかし最近になって標本(クリード石)目的の開発が行われ、既存の水平坑道よりも深層を掘り進んで2つのポケットが発見された。2009年7〜8月のことで、品質のよい標本が潤沢かつ安価に提供されている今は、本鉱を手に入れるよいチャンスといえる。ポケットのひとつを浚えているときに坑道の入り口が崩落して死者2名を出す痛ましい事故があった。黙祷。

ナヴィダード産の標本にはときに美しい水色の蛍石を伴うものがあり、以前からコレクターの間で注目されていた。供給が需要に追いつかないようで、私も狙っているがまだ手にしない。⇒手にした。 蛍石64
クリード石は蛍石が溶け出した熱水から晶出するそうである。熱水の噴出部では周壁の流紋岩が瓦礫化し、塊状の蛍石脈は砕かれて、そのカケラが粘土を含む熱水中を浮遊している。粘土流の中で(放射状に)結晶したクリード石が蛍石を捉えると、コントラストの美しい標本が形成される。クリード石の色や光沢、結晶のサイズは粘土の性質によって左右される。ときに黒色ボール状の結晶が見つかるが、おそらく酸化マンガンを含んでいるとみられる。

3つめの画像は最近手に入れた中国産である。私の知る限り、市場に出始めたばかりの新産品だと思う。白っぽい母岩の上に無色の結晶が放射状に広がっている。クリード石は放射状になりやすいらしい。

 

補記:ネバダ州のトノパ付近にあるホール鉱山は一群の中規模露天掘り鉱山の総称という(リバティ、ニューリバティ、アナコンダ鉱山を含む)。モリブデン鉱石の採掘が 1991年頃まで続いた。稼働中にクリード石の晶洞にあたることがあったらしく、1984年にライラック色のクリード石の美麗標本が数百個、市場に出回ったことがある。また 90年代初にも追加投入があり、上の標本はこの時期のもの。2000年にも新たな採集が行われたという。

中国、貴州省南西部のキンロン(晴隆県)の街の近くに大規模なアンチモン鉱山群がある。2004年頃から、オッテンス石(Ottensite:ナトリウム・アンチモン・硫黄が化合した二次鉱物)、炭酸青針銅鉱などと共にクリード石を産している。クリード石の結晶サイズは 5mm程度が多いが、大きいものは 2cmに達する。

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