595.紫水晶3 Amethyst (ケニヤ産)

 

 

Amethyst アメシスト 紫水晶

アメシスト −ケニヤ産

 

紫色かつ透明で結晶形の美しい鉱物をあげるなら、紫水晶、蛍石燐灰石が御三家ではないかと思う。 やや青みを帯びるがタンザナイト(灰簾石)を入れると四天王。サファイヤ(コランダム)も紫色のがあるが、いいものはちと得難い。
これらはときによく似た色調を示すけれど、テリや結晶形や硬さの感じが異なるのでテイストは随分違う。発色(着色)の原因もそれぞれ別のようである。
アメシストの紫色は微量の鉄分が放射線のエネルギーを受けて不安定な電荷状態になりカラーセンターを形成するためという。蛍石は微量の希土類元素の影響が示唆されている。タンザナイトはバナジウムの発色。燐灰石は…私は知らない。紫色のサファイヤはルビーとサファイヤ(青色)の中間と考えると、おそらくクロム(主因)、鉄、チタンなどの複合要因によるものと推測される。するとスピネルも同様か。
ついでに菫泥石アメス石の赤紫色はクロムによるもの。方解石にはコバルトやマンガンによって赤紫色を示すものがある。半〜不透明石だがラベンダーひすいはチタン、杉石ビオラン(透輝石)はマンガンによる紫だ。なんだかテキトーに元素名を並べているようだが、まあ巷ではそう言われているのである。

ただ本当にその通りかどうか、実は言うほどはっきり分かっていないのではないかというフシもある。極微量の元素混入によってトリガーの入る着色要因の究明は実際かなり面倒な作業で、高価な宝石を安く合成して事業化したいとか、色や物性のよく似た宝石同士を鑑別しなければならないといった強いモチーフが先立たないことにはなかなか進められない。そして、余分な不純物を徹底的に排除した理想環境での合成実験によって首尾よく目当ての宝石が作られてやっと、そうれ見ろこの通り、ということになる。それが間違っているわけではないが、どこまで天然の鉱物に適用できるか分からないじゃン?と、こそっと呟いてみる私だ。

アメシストの着色要因は、長い間、さまざまな仮説が提示されてきたが、最終的には紫水晶が商業ベースで安定して合成されるようになってようやく大方の同意を見ることが出来た。近山氏の大事典には「この色の成因はこれまで諸説があったが、合成アメシストの成功により解明された。ある種の鉄分の含有による着色中心に起因し、放射線着色による色である。」とある。
アメシストの色はその要因からエネルギー授受の影響を受けやすいもので、紫外線によって退色することが懸念されるし、また加熱(といってもお湯をかける程度でなくもっと高い温度)による色の変化が著しいという。変色の様子は産地によって違い、黄色〜黄褐色、あるいは赤色になるもの(リオ・グランデ・シトリン)や、緑色になるグリーンド・アメシストがよく知られているが、色が淡くなったり無色に変化するものも多いという。条件によっては乳白色に変わり、ムーンストーンのような感じになるものもある。
そういう状況を勘案すると、不安定な鉄イオンが紫色の主要因であることはその通りとして(紫水晶には酸化鉄であるヘマタイトを含有する例がよくある)、濃淡青紫〜赤紫に至る、標本ごと産地ごとのバリエーションには、まだ十分に知られていないさまざまな要素が絡んでいる可能性があろう。鉄分の影響が抜けたときにそれらが顔を見せるのではないか。もちろん加熱によって惹起される変化もあるだろうけど。

cf. No.962 別のアングルで撮影した画像(骸晶の様子の説明)

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