609.満ばんザクロ石 Spessartine (中国産) |
スペサルティンは和名を満ばんザクロ石といい、マンガンとアルミニウムを含むガーネットの一種である。パイロープ、アルマンディンとはアルミニウムの組成比が一定で、マグネシウム、マンガン、鉄イオンが任意の割合で互いに置換しあう関係にあり、この3者を括ってパイラルスパイトと呼んでいる。(No.249参照)
スペサルティンは美しいオレンジ色を呈するものが従前から高い評価を受けていたが、標本は意外に出回らなかった。おそらく宝石市場向けにカット用として消費されていたのだろう(タンザニア産など)。今のように標本価格が高騰していなかったときは、美しい結晶を標本として売るよりもカット用の原石として売るほうが儲かった。またマイナーな標本市場に出すより、宝石市場に持ち込んだ方が安定して量を捌けたのだ。
ところが21世紀を迎える頃、状況が一変した。最初はアフガニスタン産がちらほらと、やがて中国産がバケツの中味をぶちまけたようにドバっと並ぶようになった。その数年前にロシア産の鉱物標本が台頭し凋んでいった後を受け、中国産標本の時代が本格的に始まったのだ。(最初は安価で高品質、そしてあまり時間をかけないうちに価格の方は国際水準に近づいた)
上の標本、私が最初に手にした中国産。あるフェアで入手したが、小半時ほど前に煙水晶付きのいいものが売れたと店主が言うのを随分口惜しく聞いた。半年もしないうちにそのテの標本が陸続と出てくるとは夢にも知らず。
2番目の標本、そろそろ中国産が食傷気味に扱われ出した頃に手にいれた。ひらたく言えば売れ残り品だが、風化した長石の上にガーネットが乗った様子に趣きを感じた。
3番目の標本、母岩の表面を玉滴石(ハイアライト)が覆い、UVランプに照らすと明るい黄緑色に蛍光する。吸着されたウラニルによるものだろう。ガーネットや煙水晶の部分は蛍光しない。ガーネットが晶出した時期にもウラニルはそこらへんを流れていただろうと推測するが、取り込まれなかったらしい。そういえば蛍光性のガーネットや水晶はほとんど知られていない。
追記:現代中国人が鉱物の標本価値に気づいたのは比較的近年のことで、市場開放政策が始まって十数年ほど経過した頃と思われる。ソ連邦解体による西側への標本流出を横目で睨みつつ、自国産標本の西洋圏での付加価値に気づいたのかもしれない。80-90年代の中国は海外資本(外貨)が堰を切って流入し、鉱業開発も急速に活気を帯びていた。現役の鉱山から多くの美麗標本が回収され、西洋人が喜んで仕入れてゆくのを目の当たりにしたのだ。
福建省南部の漳州市(Zhangzhou)には、雲屑県(Yunxiao)通北(Tongbei)から
Yunlingにかけての樹林に覆われた地域に花崗岩の露頭が2ケ所あり、美しいスペサルティンや煙水晶を出すことが、遅くとも
90年代には知られていた。98年頃から商業採集が始まって盛大に西側市場に送られるようになった。ディーラーが地元の人々を雇って晶洞を探させ、陸続と掘り出しているらしい。
当初は湖南省産とか雲南省産とか標識されていたが、やがて福建省産であることが明らかになった。一番上の標本は広東省産と標識されたものを入手したが、おそらく福建省産だろう。