636.淡紅銀鉱2 Proustite (モロッコ産)

 

 

Proustite 淡紅銀鉱

Proustite 淡紅銀鉱

淡紅銀鉱−モロッコ、イミテル鉱山産

 

かつて淡紅銀鉱標本の名産地といえば、ヨーロッパではボヘミアのヨアヒムスタール、ザクセンはフライブルクのヒンメルフュルスト鉱山、アンナベルク、マリエンベルク、黒森のウィチヘンなどがあり、またチリのチャナルシロに産する数センチに及ぶ巨晶は垂涎の的であった。これらは今でも少量ながら古い標本の流通が続いているが、しかしやはり現役の鉱山、最近ではモロッコ、イミテル鉱山産の標本が入手しやすく、価格もまずは手頃であろうかと思う。

モロッコ王国は鉱産資源の輸出が外貨獲得の約3分の1を賄う重要な手段となっていて、鉱山の大半は国営またはそれに準ずる(国が株式を持つ)企業が経営している。取引額の筆頭は燐鉱石とその関連物資だが、銅、亜鉛、コバルト、重晶石、マンガン、アンチモニー、蛍石などさまざまな資源が掘り出されており、イミテル鉱山は銀山として有名だ。
標本市場では素晴らしい自然銀(コングスベルグタイプのひげ銀で水銀を含む)を産することで一躍脚光を浴び、次いで上の画像のようなきわめてリッチな淡紅銀鉱の標本が出たことによってその名に不動のオーラが具わった。
微小ながら血赤色に透き通った結晶の集合標本はまさに「眼の覚めるような」逸品で、母岩中の方鉛鉱は30%もの銀を含む含銀方鉛鉱といわれる。中には黄粉銀鉱やイミテル鉱を伴う標本もあって、おそろしいほどの値打ちものというほかない。

10年ほど前に淡紅銀鉱が出回り始めた頃、「イミテルは国営のため鉱石の持ち出しが厳しく管理されている、千載一遇の機会なので是非入手しておくべし」というコレクター心をくすぐる煽り文句とともに標本が売られた。現在は国の直営でなくなったようだが、鉱石が貴重な外貨獲得物資であることに変わりはなく、今も同じ、くすぐりが行われている。そのわりに延々と標本が出回り続けているのはフシギといえばフシギなことであるが。
「化石業界では、盗掘や密売、不法流出化石と知りながらの購入は犯罪」なのだそうだが、鉱物の世界ではそういう認識というかモラルは、標本商さんからも先輩コレクターからも、あるいは鉱物フェアの主催者からも聞いたためしがない。
そも昔から標本の供給は鉱夫やコレクターや学者方の小遣い稼ぎが当たり前という相身互いの感覚があり、赤信号をみんなで渡る、言わぬが花の運命共同体なのである。 (とはいうものの、この淡紅銀鉱の場合、持ち出し禁止の鉱山から大量の標本を継続的に入手して市場で換金できる、そして咎めの及ばない人物がどういう立場にある人かくらい、言わなくても想像がつくではないか、と私などは思っている)。

一般に銀鉱石は光に反応して変質することがあるので遮光保存が勧められているが、淡紅銀鉱は光に敏感な方で、すぐに透明度を失い、黒ずんで表面が銀色に曇りだす。標本を購う時は透明で鮮やかな赤色のものを選び、入手後は写真に撮ったら然るべく暗所に仕舞い込んで二度と陽の目をみせてはならない(冗談ですヨ)。
吹管にて熱すると、スコロド石(葱臭石)で知られるかのニンニク臭を発するため、濃紅銀鉱と区別することが出来る。砒素の反応を起こすのだが、もちろんそんなことをすれば標本は、ぱあ、である。

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