355.スコロド石 Scorodite (イギリス産)

 

 

スコロド石 -イギリス、デボン州、スパークウエル産

 

多かれ少なかれ、硫黄を含む鉱物は物理的な衝撃や加熱によって硫黄臭を発するものだし、砒素を含む鉱物はニンニク臭を発するもので、それが鑑定の手段になり、あるいは含有成分を推測するひとつの方法となっている。
なかでもスコロド石は、その名がギリシャ語の「ニンニクのような」から来ているほどで、実際に嗅いだ方がどれくらいいるか知らないけれど、叩いたときの臭いはつとに有名である。和名は「葱臭石(そうしゅうせき)」という。
鉄の砒酸塩2水和物であり、硫砒鉄鉱などの砒鉱が地表近くで酸化作用を受けたときに出来やすい。

微量成分によってさまざまな色を呈し、図鑑には灰緑、淡緑、褐、青、菫、黄、灰色あるいは無色などと記載されている。そうなるとやっぱり叩いてみないと鑑定は難しいのかもしれない。バリッシャー石グループの一で、鉄をアルミニウムに置き換えた種、マンスフィールド石との間に連続的な固溶体を作る。日本産のスコロド石には比較的アルミニウム分に富むものがある。砒酸が燐酸に置き換わるとストレング石であるが、こちらの遷移は不連続。

この標本は美しい青色を見せるイギリスの名産品。商業鉱山としてはすでに閉山した産地のものだが、標本用に掘っている奇特な方があって、鉱物愛好家が標本を手に出来るのはまったく氏のおかげだそうだ。さんくす。

補記:産地はヘメルドン・ボール鉱山という。上記の標本採集は 2000年1-8月にかけて行われ、約2,000点が回収された。母岩は鉄分によってやや錆色のついた珪岩。毒鉄鉱やアルミノ重石華、ラッセル石などを伴った。スコロド石は数ミリサイズながら美しい色と結晶形を持ち、光源によって色変わり効果を示す。
2006年の夏期にもさらに深い箇所を掘り浚って、同様の標本を得たという。(2021.8.14)

補記2:スコロド石は(並品なら)国内ではさほど珍しいものでないそうだが、昔から大分県の木浦鉱山産が有名である。「日本の鉱物」(1994)は日本産として「1級のもの」といい、「楽しい図鑑」は、最初、錫石と間違われ、その後、毒鉄鉱とされ、さらに後にスコロド石とされたが異論も多く、大正頃には新鉱物との観方もあったと紹介している。なにかと話題の品だったらしい。
九州の高壮吉博士がスコロド石としたものを、中央の学界はいったん否定したが、後に伊藤貞市博士がスコロド石と確定したという経緯があり、高博士は、「じっくりと落ち着いて研究すること。すぐくつがえされるような発表はダメ」とつねづね話されていたと伝わっている。
木浦は古くから錫を掘った土地で、天神原山の周囲のあちこちに古い坑口やズリがあった。大切谷からケダイ谷へ入り、右に回りこんで上流へ行ったところにあったワンドウ坑は異極鉱の産地として有名で、ここでは錫石を含んだ褐鉄鉱が掘られていた。スコロド石はこれよりやや東北の瓜谷山の山腹にあったダツガツオ坑から出た(ダツガツオとはダツ(炭たわら)のタオ(鞍部)の意という)。往時はオリーブ緑色、ガラス光沢の粒状結晶が多産して、地元では誰もが「ソウシュウセキ」の名を知っていたという。亜砒藍鉄鉱の産地としても有名。チロル銅鉱も出た。

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